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3月10日水通しの日

 人にもよるけれど、妊娠後期にもなると、あと少しで赤ちゃんに会えるのね♪と言うピンク色の喜びの一方で、もうそろそろこの体の状態から解放されたいと思う明るめのグレー部分も少しある。
 特に私の場合、幸いにも初期のつわりは非常に軽かったため、その反動なのか中後期に入って急に来た重だるい体や、常に胃が圧迫されている内蔵が日々悲鳴をあげているのだった。

 つまりしんどい。

 そしてくどいようだが、人にもよるけれど。


「しんどいよね。何か気を紛らわせることしたら?」

 ちょうど1年前に二人目の子供を産んだ学生時代の友人と話していてそんなことを言われた。気を紛らわせるものね、何があるだろう。動くのは体がとてもだるく、食べ物は食べるとすぐに胃と胸がいっぱいになり気分が滅入ってしまう。

 何が出来るだろう。私が頭を悩ませていると、友人が再び言う。

「そうだ、赤ちゃんの服はもう準備してあるの?」

「うん、もう一通り揃えてあるよ。いろんな種類があるよね、旦那と一緒に色々買っちゃったよ」

 私はつい先月のことを思い出しながら友人に答える。あれもこれもと

私以上に旦那が喜んで見ていたのだ。

「もう水通しはした?」

「ううん、まだしていないね。買ったままだ」

「水に触れていると気持ちよかったりするから気分転換のついでに出産準備もできるんじゃない?」

 赤ちゃんの洋服を肌に触れる前に一度水に通して置くことで布地についている化学物質を除去したり、汗を吸い取りやすくするために行う水通し。まあもう少しあとでも良いかと何もしていなかったが、そうか気分転換に行うのもいいかもしれない。私はお礼を言って電話を切った。

 深呼吸をして立ち上がり、足なのかお腹なのか重くだるい一歩を踏みだした。出産準備グッズをしまっている戸棚から洋服たちを取り出した。その量に深いため息をついてしまった。

 可愛らしい服が多く、旦那が大喜びでいろんな服を買い物かごに入れてはそのまますべて会計してしまったのだ。完全に新生児用の服から産後半年ほどは着せられるだろうかと言う服が全部で20着近くある。

「今日はちょっと止めておこうかな」

 断念し、そう思って服たちを元の戸棚に戻そうとしたときにうっかり水を張った容器に落としてしまった。

「あーあ」

 こうなったらもうすべて洗うしかないとがくり肩を落とした。

 濡れてしまったのは生まれた直後に着せる為の産着である。手で掴み、ぎゅっと水を絞った。なんとも一層小さくなったではないか。

 こんな小さくなった服がぴたりと合うのか。それはどんなにか小さくてかわいいだろう。

 他の洋服も手に取り、水に浸してはぎゅっと絞る。同じ動作を繰り返していると、次第に楽しくなってきた。

 こんな、片手拳ほどの大きさの洋服に収まる我が子が産まれるのか。濡れた服のシワを丁寧に伸ばして広げ、着ているさまを想像する。顔はおぼろげだが、よちよちと動く手足が鮮明に想像できた。

 世界一幸せな洗濯とはよく言ったものだ。

 体が重く、依然として胃もムカムカとしているのに、私は今、本当に世界一幸せな気がしてならない。

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【今日の記念日】

3月10日 水通しの日

ベビー用品をはじめとして育児やマタニティ製品、女性ケア、ホームヘルスケア、介護用品などの製造販売を手がけるピジョン株式会社が制定。赤ちゃんが生まれる前の準備として行うベビー服の「水通し」。世界一幸せな洗濯とも言われる「水通し」は、ホルムアルデヒドなどの化学物質を除去し、汗を吸収しやすくするために水洗いをすること。「水通し」を通じてより多くの人に赤ちゃんの誕生を楽しみに思い、ワクワクとした幸せな気持ちになってもらうのが目的。日付は3と10で「み(3)ずとお(10)し」と読む語呂合わせから。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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