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3月6日THIS IS USの日

 おめでとうと言い合いながら、私と夫はグラスを鳴らす。


 36年前から、私は父と母にたくさん愛された記憶が確かにある。弟妹とも仲良く過ごしたし、私は彼らを愛していた。もちろん今もそうだけれど。

 一度は人気者となる小学生時代を過ごしたし、それはとても楽しかった。中学生になると自我も少しずつ確立されてきたのか、好きなことを好きなように実行することが出来てとても充実していたように思う。

 高校生になると、中学生時代とは一転して苦しい日々だった。思春期が過ぎたのかもしれない。それを脱却すべく、大学生に期待した。アルバイトをすることで少しでも世の中が見えるようになって、まぁ確かに自分の中の世界は変わった気がする。

 社会人になるとそれも少しずつ形を変えた。幸いなことに、自分に合う仕事を経験した。好きな仕事や夢という訳ではないけれど、仕事をしているその自分にちゃんと誇りを持てたように感じることが出来たのだ。おかげで私の日々は充実していた。

 もちろん落ち込むことも多々あった。合っていると思っていた仕事でも、失敗したり評価が悪かったこともあるし、プライベートでは大恋愛の末にボロボロになり打ちひしがれたことも少なくない。

 生きていることがつらいと思うことも、なかったわけではない。

 でも、夫に出会って幸せを知ることが出来た。大事にされることを覚え、大事にしたいと思うことが出来た。

 なにより、自分を好きになることが出来たことが大きいかもしれない。たった一人、一番身近にいる自分のことさえ愛することが出来なくて、他人を上手に愛することなど出来ないのである。良く考えてみれば道理であるけれど、それをようやく知ることが出来た。

 そのおかげか、私の腕の中には二つの宝物が生まれた。

 不思議なことに新しくできた家族とを大切に思うと、同時に改めて両親や兄弟の暖かさを知るのだ。


 つまり、36歳になった私は概ね経験しているのだった。

 無論、未経験のものは山のようにあるし、私よりも年上の方からすれば圧倒的に経験値は足らないかもしれない。これからどんどんつらいことも増えるかもしれないし、大変かもしれない。子供だってまだ幼い方なのだから、彼らが思春期になればまた大変なのだろう。

 それは分かる。分かるのだけれど、でも、概ねのことは経験していると感じているのだった。少なくとも『酸いと甘い』くらいは分かるし、多少の苦みも分かっているつもりだ。


 36歳って、そんな感じ。


「良い35年だったね」

 私がそう言うと、夫は満面の笑みを見せた。

「今日で36歳。これからまた新しいはじめの一歩だね」

 あまりに健やかな笑顔なので一瞬怯んでしまったが、それはすぐに私の中にとけ込んだ。

 今からはじめの一歩と言う考え方もあるのか。

 大体経験したから、これからは程度は違えど同じことを繰り返して生きて行くものだと思ったけれど、そうか、新しいものもあるのか。

「年を取る分だけ新しい経験が出来るのって幸せだね」

 夫はそう言って少し照れてから、ダンスでも習い始めようかなと言うので私は驚きつつも笑った。


 36歳になりました。はじめの一歩、踏み出します。

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【今日の記念日】

3月6日 THIS IS USの日

20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン株式会社が制定。同社は海外ドラマ「THIS IS US 36歳、これから」のDVDを発売。人生の岐路に立つ、誕生日が同じ36歳の男女4人が主人公のこのヒューマンドラマを観て、家族、恋愛、仕事などの人生において大切な人やものを想い、感謝を伝える日になって欲しいとの願いが込められている。日付は3と6で彼らの人生の岐路となる36歳にちなんで。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



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