見出し画像

5月26日 風呂カビ予防の日

「あーあ、梅雨かぁ」

 大きな独り言が聞こえてきたのは浴室からだった。

 まるで今日このあとや明日からすぐにでも雨が降り続き、梅雨入りする事を知っているかのような夫の一言であった。ちなみに今日の日中は晴天だった。

 確かに梅雨は好きになれないものの一つである。もう40年近くこの国に生きて暮らしているが、未だに梅雨にうんざりする毎年を送っている。

 けれど独り言に出てしまうまでに梅雨に悩むことは私にはあまり考えられないが、なぜ彼は悩むのか。
 私はうんうんと頭を悩ませた。悩ませている間、時々思考が飛んでしまうのはご愛敬である。
 たとえばそれは明日の夕飯は何を作ろうかとか、保育園の提出書類や小学校への集金のことだったり、やることは山のようにある(ように感じているだけ)のだ。だから少しでも隙間があれば勝手にねじ込んでしまう自分の思考。

 あ、分かった。

 梅雨になり、雨が連日続けば私の子供たちの送迎が大変になる。それを察知し、嘆いてくれているのではないか。
 そう、大変なのだ。我が家には車は一台しかなく(大体私はペーパードライバーなのだ)、職場へは車で行くしかない夫と駅直通の職場へ向かう私では、夫が車を使うべきであって、私は自転車で駅まで向かうのが自然である。
 出社時間の関係から小学生の長女の見送りを夫が、次女を私が保育園へ連れて行く、そして帰りは私が二人をピックアップして帰宅する。こんな流れで毎日が過ぎている。

 雨の日は行きも帰りも神経を使うので、私はいろいろと磨耗するのである。滑らないように、けれど悠長に自転車を押して歩くわけには行かない。雨で視界も悪い。ああ、もうこんな時間、出社ぎりぎりだ。でもまだホームまで走ればいつもの電車に間に合う・・・・・・あ、行っちゃった。

 こんな日々である。

 梅雨、反対!

 私が一人会議に明け暮れて、ついには『梅雨、反対!』の声にあわせて右拳を天に掲げようとした頃、夫が風呂から上がった。

「あー!」

 何を見つけたのか、夫が声を上げた。

 私は私で、梅雨時期の私を思い、憂いている(だろう)夫の顔を見たく、浴室に駆け寄った。どうしたのと聞くと、彼はきらきらと目を輝かせていた。

「これ、買っておいてくれたんだね!バスタブクレンジング」

 彼は私の買ってきた新しいお風呂洗剤を見て言った。こすらず落とすと言う、最近CMでやっているアレだ。

「ああ、これで梅雨も安泰だ。ピンク汚れもきっと防げるはず!」

 どこか強い決意のような、確信のようなものを感じさせる顔つきで彼は言った。

 ああ、そう言うことね。

 たしかに梅雨時は困っちゃうよね、うん。特にお風呂掃除担当のあなたにはカビ問題は重大だわね。

 そこにカビ予防から日々の掃除がこすらず出来るとなれば大きな味方だわ。そう納得しつつ、ちょっとがっかりしかけたその時。

「梅雨のカビも心配ないし、この夏は掃除が楽になるよ。君の行きたがっていた色んなところへ家族で行こう!」

 そう言って彼は私を抱きしめた。

 どうやら防げるのはカビだけではないらしい。

 私の湧き出そうな不満やがっかりは泡と一緒に流れるのだろう。
 こすらずさっと拭ってくれた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

【今日の記念日】

5月26日 風呂カビ予防の日

住まい、衣類、キッチン、調理など、暮らしに役立つさまざまな日用品を製造販売するライオン株式会社が制定。製品の中にはお風呂のカビを予防する製品もあり、カビを予防して快適に過ごしてもらいたいとの願いが込められている。日付は日本気象協会の調査で5月26日を境に気温と湿度がカビ発生の条件に合致し、お風呂のカビが生えやすくなることから。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?