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5月25日 とんがりコーンの日

 母の細い指が憧れだった。

 人前に立ち、笑顔で話をする仕事をしていた母は、外でも家でも綺麗に身支度をしていた。何度か母の仕事をする姿を見たことがあり、その都度、彼女が私の母であることを大声で自慢したいと言う衝動に駆られるほどには自慢の母だった。

 特にその指先は綺麗なものだった。

「もうおばあちゃんの指よ」

 間もなく60歳になる母は、彼女の指に触れる私にそう言った。

「でもほら、しわも少ないし、未だに爪も綺麗に手入れをしているから形がいいじゃない」

 私が絶賛すると、母は少し嬉そうに微笑んだ。

「それに、お母さんの指を見て私は」

「あ、そうだ!麗ちゃんの為におやつ買っておいたのよ。理恵、そこの戸棚から出してあげて」

 私が言う途中で母が思いだしたように言い、4歳になる私の娘もそれを聞いて大喜びしている。私は軽く息を吐き、戸棚を開いた。

「あ、とんがりコーンだ」

 戸棚の中にはクッキーやチョコレート、ポテトチップスとともにとんがりコーンが入っていた。

「私これ大好きだったんだよ」

 そう言えば最近は食べていなかったと思い、私はどこかわくわくする。さっそく取り出して小皿に分け、麗にも渡した。

「わあ!ありがとう。面白い形だね、三角形だ!」

「ね、面白いよね。これをほら、積み上げてみてもいいよ」

 それを食べる人は誰もがするであろう遊びを教え、私は麗と笑いあった。ひとしきり笑い、私は台所に向かった。麗もくっついてきたが、冷蔵庫を開けるとすぐにおやつに戻った。

「ありがとう、おやつ用意していてくれて」

 そう言いながら紅茶を用意する。

「そうそう、とんがりコーンと言えば、あなたがちょうど麗ちゃんくらいの頃かしらね、私のワンピースを着て、口紅を唇に塗りたくって、指先にはとんがりコーンをつけて遊んだことがあったわね」

 そんなことがあっただろうか。残念なことに自分の記憶には残っていないようである。まあ、でも私ならやっていそうだ。

「だって、お母さんに憧れていたからね、私。ネイリストになったのだって多分お母さんの影響が大きいと思う」

「そうなの?そんなに特別綺麗にしていたわけでもないんだけどねぇ」

「ううん、いつも綺麗に整えているじゃない。今でもずっと憧れているんだけど、私はなかなかお母さんのようにはなれないなぁ」

 仕事と家事育児を両立する事はなかなか難しく、毎日やらなくてはならないことを切り盛りするだけで精一杯である。やらなくてはならないことだって、生産的な何かではなく、食事をすることや洗濯、子供の世話であり、単なる日常なのだった。

 きっと娘の目には、私が母に憧れたのと同じようには映っていないのだろうな。

「ママ!おばあちゃん!見てみて」

 麗に呼ばれ、彼女を見ると私は思わず笑ってしまった。

「綺麗でしょ?ママのお仕事のお手てなのよ」

 その指先にはとんがりコーンがつけられており、とんがりコーンの先にはケチャップが塗られているのだ。

「私になる必要なんて全くないけれど、少なくともあなたが憧れる母親にはちゃんとなれているんじゃないの」

 母はそう言ってほほえみ、麗のもとに向かった。

 私もまた、母の背中をついて行く。指先にはとんがりコーンをつけて。

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【今日の記念日】

5月25日 とんがりコーンの日

ハウス食品株式会社が制定。コーンを素材に植物油で仕上げたカリッとかるくて香ばしい円すいの形が特徴のコーンスナック「とんがりコーン」。2018年に発売から40周年になる「とんがりコーン」の美味しさ、楽しさをさらに多くの人に知ってもらうのが目的。日付は東京地区で新発売となった1978年5月25日にちなんで。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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