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9月12日 育児の日

      子供が出来て、ここに越してきた。

 知らない場所、知らない風景、知らないことばかりで正直不安だった。それでも何とか、夫も協力してくれて無事に我が子を出産する事ができた。まもなく1歳を迎える娘は、すくすく育っている。

「おやすみ」

 ようやく寝付いた娘のそばを、そーっと離れ寝室を後にする。寝顔をずっと見ていたいけれど、溜まっている家事や何かをこなしてしまいたい。私はそう思い、リビングに1人戻ると書類整理を始める。

 この地域の役所は毎月アンケートの提出を求めてくる。それは子育て中の親宛である。育児に際し困ったことはないかという問だけの簡素なものであり、なければなしと送ることになっている。

 私は『なし』とだけ記載し、封を閉じた。

 娘が生まれたときもやはりこのアンケートがあり、私は数ヶ月間ほど悩みを書き込んでいた。なかなか夜に眠ってくれないこと、母乳が上手くあげられていないのではないか、家事に手が回らない、等々。当時は真剣だったのだ。

 私がそんなアンケート回答を送ると、翌週あたりに今度は月刊育児新聞的なものがやはり市役所から送られてくる。その一カ所に相談コーナーが載っていて、私の悩みについてよく取り上げられていたのだ。私の、と言うと語弊がある。おそらく私と似たような質問をした人が多いのだろうその回答を載せているのだ。これには、同じことで悩むママが多いのだと思えて安心した。

 今月号は何だっただろうか。見てみると、育児中のタイムスケジュールである。専業主婦やワーママなど様々な人の1日が掲載されている。

    そう言えば、近く仕事を復帰すると聞いていたママがいるので、今月号にワーママ情報の記載があることを教えてあげようと思いメッセージアプリで送る。

 ピコン、と通知音がなる。彼女からの返信だ。

「私の10月号は食生活についてだったよ!」

    食生活?!私のと違う。彼女の返信に驚き、再び育児新聞を見てみるがやっぱり確かにタイムスケジュールについての記事である。

    その彼女の返信文が気になった。『私の10月号』と彼女は言っている。それは同時に『彼女の10月号』ということなのか。私は聞いてみる。

「もしかして、人によって育児新聞の内容が違うの?」

    すぐに返信が来た。

「そうだよ。アンケートに書いた内容を反映してコーナーに回答を載せるの」

    そんなことがあるのか?私は素直に驚いた。詳しく聞けば、あまり公にしていないが、どうもそうらしい。私の場合は『なし』と回答したから、今回はタイムスケジュールと言う記事だったが、彼女はアンケートに記載したとの事で、その回答が新聞である。

    1人1人のアンケートの相談に応じた回答なのか!?

    私はただ驚く。

「ママの悩みは地域の悩みって言うのがコンセプトらしいよ」

    そう言って彼女から再びの返信が来る。そこに、残業続きの夫が帰宅した。ただいま、と玄関を入るなり、私は駆け寄った。

「この地域、すごい優しいんだけどっ」


    この新聞の先に、子育ての味方がいるというそれだけで私はとても安心するのだった。

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【今日の記念日】

9月12日 育児の日

社会全体で子育てについて考え、地域が一体になって子育てしやすい環境づくりに取り組むきっかけの日にと、兵庫県神戸市の株式会社神戸新聞社が制定。日付は「育(いく=1)児(じ=2)」と読む語呂合わせから毎月12日とした。株式会社神戸新聞社は第9号「記念日文化功労賞」を受賞。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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