『三度目の殺人』:メモ

途中までは、どういう種類の映画か分からずに、妙に笑ってたりしたんだけど、最後まで観て、とても気に入った。つまりは、是枝版「Twin Peaks」だと思ったから(あるいは、是枝版「ナイト・シャマラン映画」かな?)。

是枝監督も、富野さんみたいに、「白是枝」「黒是枝」があるんだよね。今回のこれは「黒是枝」。

三隅(役所広司)と重盛(福山雅治)の最後の面接場面は「説明過剰」な気もするけど、まあ、監督の観客に対する「親切」なのかもしれない(勝手な想像だけど、あの最後の面接場面は、本当は、監督も要らないと思ってたんじゃないかなあ)。

でもまあ、あの最後の面接のお陰で、映画を最後まで見ると、何もかも全部分かってスッキリするのは確か(でも、無くても、何が起きたのかはちゃんと分かるようになってるけどなあ)。


【以下ネタバレありますよ】

最後の面接で重盛が三隅のことを「器(うつわ)?」と言ってくれているので、これが全て。これ以上分かりやすい「種明かし」はない。以上。

と思ったけど、まあ、続ける。

三隅は、他人の思いや意思や意図に、自分自身の体を「貸す」存在。死んだ人の霊を自分の体に「下ろす」、所謂「イタコ」にちょっと似ている。

だから、(色々な言い方ができるけれど)社長殺しは、咲江(広瀬すず)の「生霊」が三隅の体を使ってやらかしたことだし、終盤の三隅の突然の「殺人否認」は、咲江を守りたかった重盛(←同年代の娘を持っている)の深層心理とでも言うべきものが、三隅の体を経由して出現したもの。三隅の言ってることが、摂津(吉田鋼太郎)が面接するたびにコロコロ変わるのも、三隅が週刊誌に美津江(斉藤由貴)との共犯を「暴露」したのも、それぞれ、そのとき面接していた摂津や週刊誌記者の「心・意識・意図」が、三隅の体を経由して現れただけのこと。彼らは皆、自分自身の推理を、三隅の体を通して聞いていたのだ。

で、重要なのは、三隅自身は、自分がなぜそんな事を言ったりしたりするかを、ほぼ全く理解していないこと。例えば、土壇場になって突然、三隅が殺人を否定したことで咲江は「守られた」わけだけど、「そうすれば咲江を守れる」と気付いていたのは重盛であって、三隅ではない。

人々の「意思」を「代行」している三隅という人間には、自分がそんなこと(「代行」)をしている自覚が全くない。三隅は、咲江の苦しみを理解し「義憤」に駆られて殺人を犯したのでもないし、重盛の心の奥深くを「読み取って」、咲江を守るために殺人否認を叫びだしたのでもない。だから、是枝版「Twin Peaks」だと思った。

「Twin Peaks」の「裏の主人公」であるリーランドは、BOBに「入り込まれて」、近親相姦や殺人を繰り返すわけだけど、その間のことは全く覚えていない。一方の、三隅に「入り込む」のは、生身の、生きている他人の意思や心で、やっぱり「入り込まれている」間の三隅の記憶はアヤフヤ。BOBは悪の化身なので、リーランドを「操って」色々な悪さをしても平気だけど、生身の人間である咲江(広瀬すず)や重盛(福山雅治)は、三隅を「操って」しでかしたことで、十字架を背負う羽目になる。〔社長殺し〕も〔土壇場で証言を覆したせいで無期懲役で済んだはずが死刑になってしまったこと〕も、社会的・裁判所的には、「三隅本人がやったこと」になっているが、本当はそうじゃないことを、咲江も重盛も「知ってしまった」からだ。

あと、自分は昔から人を傷つけてばかりいるという三隅の告白は、ずっと昔から、三隅という人間は、周囲の人間の恨みや殺意を、当人も気づかないま「代行」していたことを暗示している。だから、おそらく、30年前の殺人も、同じ「代行」なのだ。

以上のように考えると、題名になっている「三度目の殺人」が何を指すかも分かるし、それぞれの「真犯人(三隅の体に入り込んだ意思の持ち主)」も分かる。

一度目の殺人は、30年前の留萌で起きた殺人事件で、「真犯人」は借金取りに苦しめられていた人だろう。二度目の殺人は、河川敷の社長殺しで、「真犯人」は咲江。そして、三度目の殺人は、三隅の死刑のこと。「真犯人」は無論、重盛ということになる(土壇場で殺人を否認したことで、裁判長の心証を悪くして、無期懲役で済んだはずが死刑になってしまったのだから)。

因みに、カナリアたちを殺したのは「三隅自身」なので、カナリアたちの墓の十字架は三隅の十字架。河川敷に残されていた十字架は咲江の十字架。そして、最後のカットの「十字路の真ん中に立つ重盛」の、あの十字路が、重盛の十字架。ちょっと、親切すぎる。

親切すぎると言えば、最後の最後の面接の場面で、パネルに映った顔とパネルに透けた顔が重なったり離れたりする画は、ちゃんと「真相」の「表現」になっていて、親切すぎるけど、面白かった。

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