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おさらい: 「差別」 「ヘイト」 「マイノリティ」ってなんだ?


こんにちは、あんなです。

ツイッターを使っていると、「ヘイト」という単語が濫用されていることに度々気付かされます。これまで何度も「ヘイト」が何を指すのかをツイッター上で説明してきましたが、あまりにもその意味が浸透しないので改めてnoteにまとめます。

ヘイトってなに?

「ヘイトスピーチ」や「ヘイトクライム」などで使われる「ヘイト」という言葉。この意味の説明をしろ、と言われたらどう説明されますか?
日本のツイッター上では、単純に英単語のhateを訳した意味で使われてしまっていることが多いようですが、これは間違っています。
「ヘイト」は、ただの憎悪と同じ意味で使われる単語ではありません。

「ヘイトクライムもヘイトスピーチもいずれも人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃を指す。ヘイトはマイノリティに対する否定的な感情を特徴付ける言葉として使われており、憎悪感情一般ではない。」師岡泰子『ヘイトスピーチとは何か』(岩波新書)より。

つまり、ヘイトとは、「マイノリティに対する差別感情」と言い直すことがでるでしょう。それが言語化されたり、暴力化することによって、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムといった攻撃になります。

「ヘイト」を理解するためには以下2点を把握する必要があります。
① マイノリティとは何か。
② 差別とは何か。

マイノリティとは。

この単語もまた、ツイッター上で間違った理解をしている人をよく観ます。
よくある間違いが、単純な数字的な理解です。

例をあげるなら、「女性はマイノリティではない。なぜなら人口の半分、むしろ全体の人口でいったら女性の方が多いから。」というよう主張。

これは間違いです。

マイノリティ(社会的少数者)とは、社会の権力関係において、より力を持たない人たちのことを指します。キーワードは「社会の権力関係」。
つまり、数字の話ではないのです。

例えばアパルトヘイト時代の南アフリカをみてみましょう。
全体の人口で行ったら、黒人人口の方が圧倒的多数でしたが、権力を握っていたのは人口的には数が少ない白人でした。つまりこの場合、黒人がマイノリティであって、白人がマジョリティなのです。

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マイノリティグループはいくつか特徴があります。
①その属性により対等な機会を得ることができない。
 (教育、医療、就職、収入など)
②身体的・文化的特徴があるグループであることが多い。
③そのグループに属することは「選択」ではない。

日本の医学部受験減点問題は、この良い例でしょう。
「女性」という社会的マイノリティである属性であることだけに基づき、医学部受験時に減点され、マジョリティである男性と対等な機会を得ることができませんでした。
(→ note:医学部受験の差別問題

マイノリティは主に5つのグループに分けることができます。
①人種(Race)
②民族(Ethnicity)
③ジェンダー(Gender)
④宗教(Religion)
⑤障がい(Disabilities)

この5つのグループに入らなくても、マイノリティであることは定義上可能ですが(上記の定義や特徴を満たしていれば)、私たちの生活の中で巡り合うマイノリティは基本的にこの5つの中に収まると考えて良いでしょう。

例えば、特定の趣味を持つ人は、例えその趣味を持つ人が人数的に少なかったとしてもマイノリティとは言いません。なぜなら上記の条件を満たしていないからです。
「自分の趣味に関係する商品がお店で売っていなくてネットでしか買えない!自分はマイノリティだ!」というのは、間違った主張です。

ちょっとここからレベルアップ。
人はこれらの属性のうち一つではなく、複数に属することも可能です。これを「インターセクショナリティ」と言います。
例えば、私あんなは「ミックスレイス」というレイシャルマイノリティです。それと同時に「女性」でもあります。これはどういう意味か。
一見私は二つのマイノリティグループに属しているように見えますね。しかし、私は「ミックスレイスの女性」という第3のマイノリティグループにも属しているのです。
女性の差別問題、レイシャルマイノリティの差別問題だけを語っているだけでは、「レイシャルマイノリティの女性」の差別問題をカバーすることができません。これに着目したのがインターセクショナリティです。

少し難しいですが、この件についてはキンバレー・クレーンショーさんのTEDTalkがとてもわかりやすいので、是非見てみてください。

差別とは。

ヘイト、マイノリティ同様、「差別」もまたよく間違った使い方がされています。「差別」は「マイノリティ」の定義ととても深くつながっています。
差別とは、マイノリティに対して不利益を生じさせるような異なる扱いをすること、を指します。その多くは、除外や拒否といった形で現れます。

特定の言動が「差別」であるためには、その相手が「マイノリティ」である必要がある、というのが重要な点です。

つまり、同じ言動であっても、マジョリティに対してなされた場合は「差別」ではありません。これが理解されていない最も重要な点です。

川崎市のヘイトスピーチ条例を例にとってみましょう。
この条例の2条には以下のようにあります。

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ヘイトスピーチの相手を「本邦外出身者」としています。
これにより、「どうして日本人に対するヘイトスピーチは対象外なんだ!」と批判がありました。
しかし、日本において「日本人に対するヘイトスピーチ」は存在することができません。なぜなら、日本人は日本ではマジョリティだからです。

なので、「どうして日本人は対象外なんだ!」という批判はナンセンスなのです。日本国内で、日本人に対するヘイトスピーチは、その定義上不可能だからです。りんごを見てみかんだと言っているようなものです。

「そんなわけあるか!『日本人はバカ』というのはヘイトスピーチだ!」
とどこかで叫んでいる人の声が聞こえそうですね。

まず、例えばアメリカで「日本人はバカだ。」という発言がなされた場合、それはヘイトスピーチです。なぜなら、アメリカという国で日本人はマイノリティだからです。長年、差別されてきた歴史もあります。

しかし日本ではそうはなりません。
差別ではない、というのは、その発言が許される、という意味ではありません。ただ、その発言が「差別」という言葉を使って表されるものではない、という意味です。この発言は「偏見」に当たります。(りんごじゃなくて、みかんだよ、という話。)

偏見と差別はどう違うのか。それは対象がマジョリティ・マイノリティというだけの違いではありません。
冒頭にもあげましたが、差別は社会構造からくるものです。つまり、マジョリティは制度的権力に守られています。

制度的権力とは、例えば学校、政府、軍、会社、法制度などを指します。

例えば、日本人で日本名のあなたがアパートを借りるとしましょう。
ちゃんと書類を揃え、お金の準備をし、保証人を選べば、おそらくなんら問題なくアパートを借りることができるでしょう。
しかし、あなたと全く同じ地域に生まれ育ち、同じ学校に行き、同じ職場で同じ収入を得ている同僚が在日コリアンだったとしましょう。
彼は、書類にある韓国名によって、アパートを借りることが拒否される可能性があります。入居拒否をされても、これに対して罰が与えられるケースは稀です。

これは一例ですが、その他の面においても、日本では、「在日コリアンに対する差別」は制度的権力によって肯定されてしまっているのです。なので、同じ「バカ」だという発言であっても、制度的権力に守られている日本人に対する発言と、それに守られていない、むしろ差別が肯定されてしまっている在日コリアンの人に対する発言とでは意味が違うため、単語も違ってきます。

もちろん、偏見はよくないものです。それを肯定しようとは言っていません。ただそれは「差別」とは違い、その二つの違いを理解しなければならないのです。

これも付け加えておきたいのですが、個人に対する攻撃はヘイトではなく悪口です。自分が嫌なことを言われたからといって、それが全てヘイトスピーチになるのではありません。

「あんな、お前あほだな!」というのは、誹謗中傷であり悪口であって、ヘイトスピーチではありません。(繰り返しますが、許される行為ではありません。)
しかし、「ハーフは脳みそも半分しかないんだな!」はヘイトスピーチになります。何故なら、「ハーフ」というレイシャルマイノリティに対する発言だからです。これにさらに、差別用語を使ったりしたら、完全にアウトです。

川崎市の条例解釈にヘイトスピーチの典型例が挙げられていたので、是非参照ください。

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「逆差別」

マジョリティの中にも当然弱者がいます。そして中には「逆差別」を主張する人もいます。これは先ほどの「偏見」ともつながってきます。

逆差別というのは、例えば「男性差別」や「日本人差別」などの主張を指します。
結論からいうと、「逆差別」は存在し得ません。

どのグループにも、個々人間で生活レベルや待遇は違います。
例えば、お金持ちな黒人(マイノリティ内の強者)もいれば、ホームレスの白人(マジョリティ内の弱者)もいます。
ホームレスの白人は、お金持ちな黒人をみて、「それみろ、差別なんてないじゃないか。」というかもしれません。
しかし、比べるべきはこの二人ではなく、お金持ちな白人vs.お金持ちな黒人、ホームレスの白人vs.ホームレスの黒人です。同じ状況において、どのように対応が異なるか。おそらく、どちらの場合も黒人の方が白人よりも不利益を被っているでしょう。これが差別です。

男女においてもそうです。各々のグループで違うブラケットにいる二人を比べるのでなく、同じ状況を男女で比べなければいけません。

同じ学歴で同じ職場に入ったのに、男性の方が昇給が早いことはよく指摘されますね。

以下、差別についてとてもわかりやすいビデオに字幕をつけてみたので、観てみてください。

男性学の研究者の第一人者であるマイケル・キメル教授は、「Priviledge is invisible to those who have it. (特権は、それを持つ人々には見えないのだ。)」と言います。
世界的にも様々な差別問題が取り上げられ改善される中で、それまでマジョリティだったグループは、まるで自分の権利が奪われるような錯覚を起こします。しかしこれは初めての現象ではありません。
奴隷開放運動の際、白人たちは自分たちが奴隷を持つ権利が害されていると主張しました。しかし今ではそれがどれだけ愚かな主張かがわかると思います。

日本で言われる「逆差別」の中でも多く目に止まるのは「男性差別」です。もちろん、男性も社会の中で多くの困難と戦っています。偏見を押し付けられています。しかしそれと同時に、優遇されているマジョリティであることには変わりないのです。一男性にとって当たり前の物事を、女性は戦って得なければいけません。
今女性が苦しむ差別と、男性が苦しむ偏見は、これまで男性によって作られてきたことを忘れてはいけません。

「女は結婚すれば仕事やめて家に入れるからずるい。」
→女性は働かずに家にいて家事育児をすべきという価値観を作ったのはこれまでの男性たち。

このように、男性社会が作り上げた価値観によって男性が苦しむことを「差別コスト」と言います。これを改善するには、男性間で価値観をアップデートしていかなければなりません。一番良い方法は、政治や職場などで多様な人材を集めて様々な価値観を共有することです。

例えば先日、以下のようなツイートを見ました。

私は糖尿病ではないし、大腸癌になったこともありません。
なので、これまでそのような器具を使っている人が体に負担をかけないウェディングドレスを必要としていることなど、想像もしたことがなかったのです。このツイートをきっかけに気付くことができました。

このように、様々な背景の人間が集まって自分の経験や価値観を共有することによってより良い社会を作っていくことができるのです。その価値観の変貌は、マイノリティだけでなく、マジョリティグループの利益になることも珍しくないのです。

先ほどの制度的権力の話に戻ってみると、政治家や大企業の社長など、それらの価値観を変えて男女共々自由にすることができるポジションにいるのは男性です。

逆差別を主張して女性を攻撃してもなんら改善は見込めません。なぜなら男性が苦しんでいる偏見を生んでいるのは女性ではなく男性だからです。
男性が互いに話し合い、女性のリーダーを増やし、現状を変えていくメインプレーヤーにならなければいけないのです。なぜなら、悲しいかな女性はこれらのポジションから除外されているからです。

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菅政権(2020年)

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フィンランド、サンナ・マリン政権(2020年)

フィンランドは世界幸福度ランキングで1位、日本は58位です。

ちなみに男性差別を主張する人の中に、「女性の方が異性からの性的アプローチが多いから優遇されている」という全く「優遇」とは関係ない主張をされている方がいますが、それは違います。

①誰が誰に性的に惹かれるかは個々人の問題なので差別は関係ない。
②女性は性的に積極的であるべきではないという価値観を作ったのは男性(これも差別コスト)。
③女性は不特定多数の男性から性的にアプローチされることを望んでいない。

終わりに。

ここまで長々と書いてきましたが、結論は以下の通りです。

①マイノリティは数の問題ではなく社会構造の問題。
②少数だからといって、なんでもかんでも「マイノリティ」になるわけではない。
③差別とは、マイノリティに対して不利益を生じさせる異なる扱い。
④差別と偏見は違う。同じ発言でも、マジョリティになされたらそれは「差別」ではなく「偏見」になる。
⑤「ヘイト」とはマイノリティに対する差別感情。憎悪一般を指すわけではない。
⑥逆差別(日本における日本人差別、男性差別など)はその定義上存在しえない。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでも、差別とは、ヘイトとは何かの理解がクリアになれば幸いです。

Bibliography:

Richard T. Schaefer, Racial and Ethnic Groups 5 - 10 (1993).
Timothy N. Laurie, The Concept of Minority for the Study of Culture (2017).
師岡泰子『ヘイトスピーチとは何か』(2013).
Discrimination: What it is, and how to cope, American Psychology Association
ヘイトスピーチ, 川崎市
「外国人お断り」は差別~vol.13 在日朝鮮人の入居差別問題
「逆差別」の女性批判、認識甘い
UN, Equality and Non-discrimination
World Happiness Report, 2020

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