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ビーチでのロケ:写真の部屋|Anizine

かなり前の夏の話ですが、ある仕事のロケで南の島に行きました。仕事とはいえ、南の島に行くということでスタッフがウキウキしているのがわかりました。現地に夕方に到着して空港の外に出ると、美しいピンクの夕焼けをバックに椰子の木がシルエットで並んでいました。プロデューサーは50代の真面目そうな男性で、ホテルの彼の部屋にスタッフが集まり軽いミーティングをしました。

「リゾート地ではありますが、明日からの撮影はトラブルのないように気を引き締めていきましょう」

と真剣な顔で言います。皆、真面目に話を聞いていましたが、ヘアメイクのアシスタントの青年が私の脇腹をつついてきたので指をさしている方に目をやると、プロデューサーの開いたスーツケースにパイナップル柄の派手な海パンと『地球の歩き方』が入っているのが見えました。私たちふたりは笑いをこらえるのに必死でした。

翌日はロケ場所の確認をしてから撮影の準備、午後に空港に向かい、一日遅れでやってきたタレントの出迎えです。彼女は完全にリゾートファッションでした。夜、全員が揃ったところで食事をして、翌朝からの撮影に備えて早く解散しました。

二日間の撮影が無事終わったので、天気予備にあてていた最後の日は完全にフリー。プロデューサーはあのパイナップル海パンをはいてプールサイドで寝ています。皆はそれぞれ買い物に行ったり、カフェでボンヤリしたりして最後の夕食までのオフタイムを楽しんでいました。

夕食のレストランは現地のコーディネーターがお薦めしてくれた、山の上にある店でした。ロケバスに乗り込み、美しい星を見ながら真っ暗な森の中を抜けるデコボコ道を走って行きます。フランスから来たというシェフの料理は洗練されていてとても美味しく、あとは帰るだけなので気持ちが緩んだのか、かなりお酒を飲んでいる人もいました。1時半くらいまでレストランのバーで過ごしてからホテルに戻り、自分の部屋のドアを開けようとしていると、スタイリストの女性に呼び止められました。

「アニさん、ちょっと嫌な話があるんだけど聞いてくれる」

と言うのです。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

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人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。