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一人旅:Anizine・写真の部屋(無料記事)

浅生鴨さんが一人旅の短編を、平林監督もたまたま一人旅について書いていた。俺も帰ってきたばかりなので書く。

国内もそうだけど、外国に遊びに行くときはできれば一人がいい。俺のスタイルはかなり衝動的なので自分の予定だけで決められた方がラクなのだ。二人のスケジュールを合わせるのも大変なのに4人とか5人ではほぼ無理だ。

行きたい場所も予定せずに行くから、誰かが「せっかく来たんだからあそこに行きたい。3時間で行けるから」などと言われると気絶しそうになる。せっかく、が厄介なのだ。とにかく『来た球を打つ』のが旅だと思っているので、自分がしたいことに誰かを付き合わせるのも気が引ける。ミラノで偶然会った人がブリュッセルに来ないかと言われればホイホイ行きたいし、気分が乗らない雨の日なんかは一日中ホテルで寝ていたいのだ。

平林監督とはパリとホーチミンと香港とカンヌとベルリンに行った。最初のパリでは何もすることがなく、スーパーで買った毛染めで金髪にするというくだらない遊びで一日を費やしたりした。そういうのが好きだ。ホーチミンも適当すぎるほど適当な理由で遊びに行ったんだけど、平林監督と俺が仕事場をシェアし始めてから10年経った記念に、ふたりで仕事をすることを決めた思い出の地であるパリを再訪しようということになった。しかしその直前に平林監督がパリでのロケが決まってしまい、続けて二度もパリに行くのはちょっと、ということでホーチミンに行くことになったのである。俺たちふたりのホーチミンでの思い出は何一つなかったが、そんなのでいいのだ。

あとは映画祭に招待された平林監督にくっついて行ったのがカンヌで、ベルリンは俺がドッキリ方式で映画祭チームに会いに行った。あの時の監督の驚いた顔はいまだに忘れられない。監督の映画チームはいつも大勢で、彼はその打ち上げ感が好きなのだ。気の合う仲間をごっそりパッケージで外国に持って行く感じ。あれは楽しいのがわかる。

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写真を撮るようになってから人見知りをやめた、という話は何度か書いたけど、それまでの人格とは190度変わった。数日前も友人を待っていたオデオンのカフェで知らないノルウェイの女性と1時間くらい話し、互いにInstagramのアカウントを交換した。いつかノルウェイに行くことがあれば彼女を訪ねるだろう。誰彼構わずに撮りたい人には声をかけて撮るし、それが縁でいまだに交流が続いている人もたくさんいる。

旅先では地元の人と知り合うのももちろん楽しいんだけど、お互いに旅行をしている同士だと気分が高揚しているバイブスが合う。観光客というのはやることがないのが基本だからいいのだ。地元の人だと「明日は仕事なんで」みたいになるところでも、旅行客同士だと、「じゃあ俺も明日やることないからついていこうかな」みたいなのも可能だ。

今回は友人のシェフの店三軒に食べに行き、たまたまカンファレンスでパリに来ていた友人とランチをしたり、以前写真を撮らせてもらった人の家でディナーをしたり、PFWのYohji Yamamotoのショーに呼んでもらい、店が休みのシェフのお宅で手料理をご馳走になり、イタリアから来ていたシューズデザイナーと知り合い、ノルウェイの女性と話し、友人のできたばかりのショールームに行き、知り合いと仕事をした現地のモデルと会い、Lindaの店に遊びに行き、日本から来ていたカップルと一日散歩しながら撮影をし、2週間何もせずにぼーっとしようという計画はアポイントの嵐となった。

平林監督が知らない人と会うことをストレスと感じているのは知っていた。以前の俺もそういうタイプだったから気持ちはよくわかる。でも旅先で偶然会った人を次の時も訪ねていけるのはとても楽しい。自分と話が合う人というのが最低条件だけどね。そこにいる知り合い全員と毎回会うことは不可能だけど、それもあまり気にしなくていい。仕事じゃないからタイミングが合えば、でいいのだ。

写真というコミュニケーションツールが自分の人見知りな性格を210度変えてくれたのはとても素晴らしいことだと思っている。カメラを持っていなければ今でも誰とも話をせずにひとりで旅行をしていたかもしれない。

写真って、写る人がいなければ何もできないからね。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。