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水が描く自由:Anizine

川の近くに住んでいたことが何度かある。海の近くに住んでいたことも、同じように何度かある。

すぐそばに水が流れているという環境は、生活に何か得体の知れない効果があると思っている。川はつねに水が流れてとどまることがなく、海は自分が外の世界と繋がっているという感覚をもたらす。

俺が生まれ育った横浜は言うまでもなく港町であり、外国の文化が日常的に入ってくる場所だった。港にもいくつかの種類がある。漁港のようなところはそこにいる船が決まっているので、見知らぬ場所に続いているという妄想は生まれにくい。毎日同じ船が出て行き、同じ船が帰ってくるからだ。

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ヴェネチアのちいさな島に行ったとき、港に面した家がカラフルに塗り分けられているのを見た。地元の人から、「船が帰ってくるときに自分の家が見つけやすいからだ」と聞いた。黄色や赤や青の原色に塗られた家。みんながそうした結果、「白い家」が一番目立つようになった、という間抜けな話も面白かった。

人が成長するとき、環境はとても大きい。「孟母三遷」という逸話があるが、子どもは大人と違って外的な要因を自分で選択できないから、暮らす場所は親が与えるしかない。

俺が育った場所には外人墓地があり、輸入食料品店があり、中華街があり、朝鮮学校があり、同級生にはブラジルから来たサッカーが下手な兄弟がいた。そういう環境で育ったことが今の自分にどれくらいの影響を与えているかと言えば、ほぼ全部だと答えたい。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。