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本ができた:写真の部屋(無料記事)

先日、「あなたは自分がやりたいこと以外は何もしないタイプだよね」と言われました。わかってはいるのですが、人からキッチリ言われると考えてしまいます。それでいいのだろうかと反省したり、それでいいのだとバカボンのパパみたいに自信を持ったりする繰り返しです。

1月19日、ダイヤモンド社の編集担当、今野さんと『HOTEL TRUNK』でランチ。そこでついに本のカタチになった『カメラは、撮る人を写しているんだ。』を受け取りました。二冊目の本ということもあり、前回は慌ててしまってできなかった問題点を解消することはできたのですが、やはり原稿を入稿してから「あれを書いておけばよかった」という反省は日々生まれていきます。一日が経過すれば考えは更新されていくので当然のことです。

今回の本は、それまでただの友人だった今野さんとの初めての仕事で、始めの頃は、改まって仕事の話をするのが気恥ずかしいような感覚だったのですが、振り返ってみると大きなトラブルもなくすべてが順調に進みました。本の後書きにも書いたのですが、私は写真の撮り方を教えられるような立場ではありません。優秀な写真家をたくさん知っていますし、彼らと比べたら自分の能力などハナクソ程度だとわかっています。ハナクソというのは少し品のない表現なので言い換えると、ビチグソくらいです。

今野さんが本を作るスタンスは売れるとかではなく、「自分が読者として納得のいくものを作る」ということだと理解しています。今野さんから最初に写真の本を作りませんかと言われたとき、私のような者が写真について何かビチビチ言っても説得力はないだろうと思いました。私にとって写真は仕事であり趣味ですが、そこに『他者への教育』が加わるとしたら、書くのは私ではないだろうと思ったのです。こういうときに一番よくないのは謙虚と自虐を間違えることです。謙虚であるのはいいことなのですが、それを理由にすると何もしなくていい言い訳ができてしまいます。

以前、あるクライアントと話していたときに「私なんか三流の写真家ですから」と言ったら、「そういう言い方はよくないですよ。あなたに仕事を頼んでいる私たちも三流だということになってしまいます」と言われ、ショックを受けたことがあります。仮にも仕事を引き受ける立場として言ってはいけないことだとわかりました。自分の生き方の内規として、謙虚という名のスニーカーをはき違えてはならないのだと反省しました。

仕事という言葉にはふたつの意味があります。飲食の仕事をしています、と、この寿司には仕事がしてある、という二種類です。ジョブとアートと言い換えることもできそうですが、それは完全に別の概念ではなくて、揺れ動きながら重なっている部分が変化していくものです。本の中に、「他人の満足を想定した創作物は貧しい」と書きました。クライアントワークを、言われたことをする、と解釈している人もいますが、私は順番の問題だと思っています。自分がしたいことをしていると、それを見た人から仕事を頼まれるというのが理想で、相手に命令された納得のいかないことを従順に解決してみせることが仕事ではないと思っています。

幸いなことに私には「あなたがして欲しいようにやってください」と任されるクライアントしかいません。偉そうに聞こえるかもしれませんが何の自慢でもありません。「この場面ではこいつのやり方でこいつを使うのが正解だろうな」と思ってくれる人たちがいるというだけなのです。彼らとの仕事はとてもスムースで、それは事前に何をすればいいのかが明確だからです。そんな仕事ばかりしていると、見栄えや条件のいい仕事をバンバンやっている写真家と比べて劇的に見劣りします。ガッポガッポ儲かりませんし、メディアにも出ませんし、若者からも「素敵!あんなクリエイターになりたい!」と憧れられることはありません。でもそれが自分にとって心地よい仕事のスタイルなので何とも思わないのです。

今野さんと本を作るにあたって、私の「普通のやり方」を見せることにしました。彼は本を作るプロであり、過去に素晴らしい書籍をたくさん作っていますが、そのどれとも違うだろうという方法を取ることにしました。

この本は写真に興味を持った若者に、おっさんが暑苦しく教えるというありがちなベストキッド・スタイルです。それも具体的な技術や情報を伝えるのではなく精神性に絞りました。若者はスマホで写真を撮ることから写真の勉強を始めるのですが、最終的に自分が好きな女優を撮影するに至ります。それがカバーに使われた小橋めぐみさんの写真です。つまり本の中のフィクションと現実の外観をワンパッケージにしようと思ったのです。この手の本の定石では文字が大きく載っているタイポグラフィがメインになりやすいのですが、それだと本で扱っている「写真」というビジュアルランゲージの効果を殺す矛盾が生まれることになります。

本の制作予算には限りがありますから、デザインだけで解決しようとしますが、「そのための撮影ができればなあ」と思っているだけでは何も変わりません。私が本を書いているという話を伝えると、日本が世界に誇る最先端のレンズメーカー、東北地方を中心とした「Made in Japan」が主軸の生産体制、高い製造技術と品質管理による性能と品質を提供するSIGMAが撮影に関して全面協力をしてくれることになったのです。今、ホームページからちょっとコピペしましたけど。

ここで協力や協賛をしてくれるメーカーはどこでもいいというわけではありません。SIGMAのレンズが好きでいつも使っていて、私の写真はSIGMAがあるから生まれている、という信頼のエビデンスと、対等の関係が必要なのです。

というわけで、私に本を書かせようと思ってくれた今野さん、プロデューサー、スタイリスト、ヘアメイク、小橋めぐみさん、SIGMA、『ロバート・ツルッパゲとの対話』に引き続きデザインをしてくれたマツダオフィスなど、たくさんの好きな人のおかげで本ができあがりました。感謝という機関銃を乱射したい気分です。撮りたい人を撮って、言いたいことを全部書いて、結果として本が売れれば最高です。あー、楽しかった。



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