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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2019年12月の記事一覧

揃う揃わない:写真の部屋

写真は撮ったときから、どこか別の場所に行ってしまうことがある。 俺は写真もそうだけど、アートディレクションをしているので、「写真は素材」だとして扱うこともある。写真をたった一枚だけそこに置くのなら編集やディレクションはいらないかもしれない。でも、どこに置くか、どれくらいのサイズにするかなどは、もう何かしらディレクションされている。 だから、写真はその時に撮った感情とは別の受け取り方をされる場合があると知っておいた方がいい。写真集として編集するなら、まったく違うときに撮った

ダークフルネス:写真の部屋

広告写真を撮っているカメラマンのサイトを見ていると、仕事で撮ったモノに混じって、「Private works」などと書かれたカテゴリの写真があることが多い。 これが何を表しているかというと、「ご飯を食べているのはあっちの写真だけど、本当に撮りたいのはこっち」という、創作者の意図である。創作者にふたつの理想があってはいけないから、ただのエクスキューズだ。 照明ピカピカのスタジオで笑顔のタレントが商品片手に写っている写真を見せられた後で覗いてみる「Private works」

目を撮る:写真の部屋

最近のカメラには「瞳AF」がついている。 文字通り、人間の目に焦点を合わせる機能なんだけど、これはかなり便利。 なぜ「人間」と書いたかと言えば、さらに機能が進化して、「動物の目」にも反応する機能も追加され始めたからだ。ペットを撮る人などには必要なんだろう。 望遠の単焦点で明るいレンズを開放で使う、などの場合は被写界深度が浅くなり、まつげに合わせると瞳はややボケていることもある。だからちゃんと虹彩に合っていた方がいい。 心理学的に言うと「瞳孔は大きく開いていた方が、見て

動画の日の丸構図:写真の部屋

写真の教科書などでよく言われる日の丸構図。 ここでも何度か書いたことがあるかもしれませんが、昨日、ある映像を見て思ったことがあるのでまた書きます。 人物や主題になるモノが画面の真ん中にあることを「日の丸構図」といいます。そんなつまらない用語は憶えなくていいですけど、これをしてはならない、と教科書では教えています。理由は、工夫がなく退屈でありきたりだから。そこに「こうしましょう」と書かれてくっついてる写真を見ると、意味もなく人物が端に寄っていたりします。 また「三分割構図

撮るチカラと選ぶチカラ:写真の部屋

コピーライターである仲畑貴志さんが書かれていた言葉は、数十年経ってもいくつも思い出せる。単にコピーライティングだけではなく、考え方や、もっと言えば「生き方」にも関係していたからだと思う。 俺はデザインをしていたけど、コピーライターから渡されるコピーがいつもすごく気になった。デザイナーの中には、「ここに入るテキスト」としか思っていなかった人もいたが、俺はなぜこのコピーになるのかが納得できるまで、しつこく口を出した。 先輩のコピーライターを質問攻めにしていたとき、手に持ってい

齋藤陽道『声めぐり』:写真の部屋

写真家・齋藤陽道さんの『声めぐり』を読んでいる。 以前から、いい写真を撮る人だなあと思っていた。確か、七尾旅人さんのツイートで知ったような気がする。それからTwitterでだけ会話をしていたんだけど、昨日初めて会うことができた。プロレスをやっていることもあって頑丈な体格をしていたし、握手した手もPENTAX67がフィットしそうだなと感じた。 『声めぐり』は、知人の編集者である大熊さんが書いていた聴覚障害について少しでも理解できればと思って読み始めたが、音と世界との関わり、

高地トレーニング:写真の部屋

写真には無限の可能性がありますから、「こうでなければ間違い」という声に、一切耳を傾けないでください。 他人のやり方を「間違っている」と言いたがるのは、自分がやっていることに自信がない人です。好きな写真を好きなように撮れていれば、自分以外の他人がやっていることへの敬意も生まれますし、ことさら自分が正しいなどと言わなくて済むはずです。 自分の写真の善し悪しを決めるのはたったひとり。自分です。自分が撮りたいように撮れなかったとしたら、それは「失敗」ですが、反省が終わったら気にせず

ブラックボックス神話:写真の部屋

デジタルカメラになってよくなったのは、結果がすぐにわかること。結果を見ながら試行錯誤をしつつ練習できるのは、フィルム時代には考えられなかった革命です。 そこでしっかり考えて欲しいのは、写真の感情的な「ブラックボックス神話」に騙されないこと。フィルムというマテリアルにこだわるのは、すでにフィルム撮影やプリントの技術を身につけている人だけがやればいいと思います。 どうしても昔使っていたフィルムや印画紙が好きで(もうほとんどないけど)、そのノスタルジーに価値を求める人は否定しま

どうでもいいホテル:Anizineなど

平林監督の晴れ舞台を見たかったんだけど、ロッテルダム映画祭にはたぶん行けそうにないので、1月はほんの数日だけ近場のビーチリゾートに行くことにした。 どこかに行くときにまったく気にしないのがホテルのランク。毎日ひたすら街を歩き回っているからただ寝るだけのことが多い。バリ島のようにホテルにいる時間が重要な場所ではいいところを選ぶんだけど、大きな都市ではどうでもいい。 よくパリのホテルなどで4つ星などと言われるけど、あれほどあてにならないものはない。ミシュランとかのイメージが強

写真の部屋:(無料記事)

「私の好きなJ-POPの歌詞」というのをネットで見かけた。自分が好きな歌詞を抜き書きしているんだけど、あまりにも表面的で、小田和正さん的に言えば、言葉にできない。 写真を撮ることはドラマを写すことでもあるけど、そこで起きている状況に対して、撮る側が溺れてはいけないと思っている。ちょっとジャーナリスティックな言い方だけど、「安っぽい共感を排除しないと見えてこない」ものがある。 たとえばこの写真。ヨーロッパのターミナル駅だったから、もしかすると恋人同士の別れなのかもしれないし

音楽写真の具体例:写真の部屋

今日は、あるミュージシャンの撮影打ち合わせをして来ました。 仕事には多くの種類があって、それぞれ進み方が違います。今回はミュージシャンや音楽事務所と方向性を話しているうちに、アートディレクターが「それならアニに頼むか」と決めてくれたようです。 自分がどんな写真を撮るのかは、できるだけ狭く決めておいた方がいいと思っています。「私は幅広く色んな写真が撮れます」と間口を広くアピールしても、それは何でも屋さんのファミレスのように便利に扱われてしまいます。「うちはステーキ専門店です

黒バック:写真の部屋

いつも黒バックを持って行く。それを背景にすれば、世界中がどこでも俺のスタジオだ。 人物のポートレートを撮るのに、意味はない。知らない人と出会って撮ることそのものが目的だ。 だから仕事で、「こういう結果を得たいからこう撮って」と言われると、意識は設定された着地点に向かうことだけになってしまう。その方が気が楽ではあるんだけど、なんというか、面白くない。 ただそこに立っていてくれ、と言っても、だいたいの人は照れて変なことをしようとする。それは撮らない。俺がいつまでもシャッター

絵になる写真:写真の部屋

写真を撮り始めた人が陥るのは、「絵になる風景を探すこと」と「典型の模倣」です。 最初に言っておくと、この「写真の部屋」では、写真を自由に、好き勝手に撮ることを勧めています。正解はないので皆がそれぞれ自由に撮ればいいので「こうしてはいけない」とは言いません。 しかし、「不自由に撮るべし」という教えが溢れていることも知っています。あたかも写真の撮り方に正解があるように。 最終的に、写真は自分の撮りたいモノを撮りたいように撮れば、それが出発点であり終着点だと思っています。です