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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2021年2月の記事一覧

牧場の続き:Anizine(無料記事)

優秀なシェフである友人の店で食事をする。 こういうときに「ミシュランの星つき」とか「話題の名店」などという表現はしない。誰かから認められて褒められることは幸福だけど、それは俺が決めた「食べに行きたい基準」ではないから。 目で見る絵や、耳で聴く音楽が抽象的な精神を育てるのとは違って、食事という芸術は自分の口に入って肉体になる。美味しいと感じること以外に、生命を維持することと物理的につながっているのがスゴい。 優秀なシェフは街のレストランのドアをガラッと開けて入って行き、「

牧場で働く:Anizine

ソーシャルメディアは現実の世界とまったく同じだから、あえて愚痴ばかり言う人や、自分は正しくてお前は間違っているとか、俺たちの時代はもっと大変だったなんてことばかり言っている人を、わざわざ食事に誘いたいとは思わない。そういう人は疎まれていることをリカバーしようと、より自分は偉いと主張し始めることでさらに人が離れていく。負のスパイラルだ。 自分がやっていることは自分のサイズでしかない。それは俺たちのような50代ではもうはっきりと決まっている。このサイズの牧場で、飼える数の牛を飼

犯人は誰だ:Anizine

金田持三さんが、自宅で何者かに殺されていた。 部屋が物色され、現金や宝飾品などが散らばっていたことから、警察は強盗殺人とみて現場検証を始める。新人の鑑識である山田がソファの下にあった血の着いたスマホを見つけた。バッテリが切れていたので電源ケーブルを探している。 その頃、ベテラン刑事の斉藤は現場周辺の監視カメラを確認していた。金田さんの自宅カメラはすべて作動していなかったからだ。たまたま近所の家に、金田さん宅が映っているカメラがあった。しかし角度が悪く、誰がドアを開けて家に

バンカーを避ける:Anizine

人々が、これほど哲学的な日々を過ごしたことはないんじゃないかと思う。 俺は今までに一度も、noteに「あのカタカナ3文字」を書いたことがない。書くとサーチされて、記事の上にデザイン的に醜悪な表示が出てしまうからだ。 反対に言えば「現在の状況は」と、内容は同じであっても書き方さえ変えておけば出ないということになる。それほど注意喚起という意味においては無意味だし、プログラムというのは硬直した馬鹿なものだと思っている。 それはさておき、今の「新しい生活」をどう過ごしているかは

富豪の部屋:Anizine

外国には行けない、外食は20時まで、などという不自由すぎる現在、自由の範囲というのを考えてみた。 ここを読んでいるメンバーはどんな職業の人たちだろうか。学生も主婦も、サラリーマンも僧侶も、学者も公務員もいる。わかりやすく見た目でたとえるなら、スーツ着用とか、制服や袈裟を着なければならない、というだけで「ファッションの自由」は奪われることになるだろう。 時間の制約も、髪型も、ありとあらゆる規則が決まっている職場もある。俺がサラリーマンをしていたのは割と自由な会社だった。アイ

ダサい:Anizine・写真の部屋

日常的にかなりの頻度で「ダサい」と言ってしまうんだけど、結局のところ自分の判断基準はこれひとつしかないと思っている。 シンプルに考えていくと、「こうするのはダメだとわかってはいるけど、仕方なく目をつぶっている」みたいな多重構造には、巧妙な嘘や言い訳が含まれていることに気づく。こんな状況だから僕を赦して欲しい、というのは当然のことながら「ダサい行為」だと感じる。 このとき、状況の優劣は関係ないということにも留意して欲しい。問題は、自分が掲げる理想と、そのためにやっていること