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牧場の続き:Anizine(無料記事)

優秀なシェフである友人の店で食事をする。

こういうときに「ミシュランの星つき」とか「話題の名店」などという表現はしない。誰かから認められて褒められることは幸福だけど、それは俺が決めた「食べに行きたい基準」ではないから。

目で見る絵や、耳で聴く音楽が抽象的な精神を育てるのとは違って、食事という芸術は自分の口に入って肉体になる。美味しいと感じること以外に、生命を維持することと物理的につながっているのがスゴい。

優秀なシェフは街のレストランのドアをガラッと開けて入って行き、「お前のところの料理は邪道だ」とか「上質なセモリナ粉を使っていないから認められない」なんて怒鳴ったりしないよね。

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ネットでウンザリするのは、自分が優れているとアピールしたい人が、目的の違う人を「自分だけが決めた生き方の基準」に則って攻撃することだ。やられる方はたまらない。住宅街にある、子連れの主婦がランチをしにくるカジュアルなレストランで「こんなものは最高級フレンチとは認められない」と騒ぐのだ。

だから、全員が最高級フレンチを目指していなんだってば。そして本物の最高級フレンチのシェフは、住宅街のレストランで騒がない。世間に認められているから、大声で自分の正しさを言って回る必要がないんだ。

言いたいことがあればソーシャルメディアでも本でもいいから、自分の名前で出せばいい。それが誰にも見向きされなくても、本が売れなくても誰にも迷惑がかからずに被害は自分のテリトリーの中にとどまるから。

「僕の料理なんてまだまだです。他の優秀なシェフの料理を食べると自分の能力の低さに情けなくなりますよ」という料理人だけを、俺は信じている。

「Anizine」牧場で働く
https://note.com/aniwatanabe/n/n40c4300780a9

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。