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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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#恋愛

博士の普通の愛情

いつも思うのですが、なぜ世の中には恋愛のコンテンツがこれほどまでに溢れかえっているのでしょうか。 『博士の普通の愛情』というマガジンをつくったのはその謎に挑戦するためでしたが、まだまだ答えは出ません。今、書籍化のために書いている短編の中で恋愛がテーマのものがいくつかあります。コンビニの店員を好きになる話、メールのやり取りだけで進む話などです。 ウエストランド井口さんがM-1のステージで言ったように、恋愛の物語にはパターンがそれほどありません。服そのものは同じなのにフリル部

ギャンブラーの本質:博士の普通の愛情

「いい歳をして、あなたの恋愛観は中学生並みですね」と女性から言われたことがありました。40代の頃です。自慢ではありませんがまだまだ中学生の恋愛観はしっかりと維持しています。 誤解されがちですが、感情の成分は年齢によって変化するものではありません。それに付随する立場とか世間体が変わっているだけです。その証拠に老人ホームで起きた恋愛がらみの事件などの話を聞くと、まさに感情も衝動も中学生並みです。歳を重ねたからといって同じなのです。 私が恋愛の話が好きではないのは、その動物的な

ポルシェ・スピードスター:博士の普通の愛情

彼はクルマが好きなの。私と暮らしていた間だけでも5台くらい乗り換えたと思う。 そう言ってからリエは、ティーカップを持ったまましばらくうつむいていたが、また話し出す。 いま、乗り換えたって言葉が自分の口から出て、ちょっとびっくりしちゃった。まさに彼は「乗り換え」ていたんだってことがわかった。詳しいことはよくわからないけど、知り合った頃は古いポルシェに乗ってたの。スピードスターって言ったかな。それがどれほどいいクルマなのかを説明されたけど、私が興味のない顔をしたからすぐに不機

プラトニック:博士の普通の愛情

他人の恋愛に口を出したがる人って、自分が何か「正解」を知っていると思っているのでしょうか。カフェなどで隣に座った女子高生の話を聞いていると、まあこれくらいの年齢の話題の中心は恋愛しかないのだろうと思えるのですが、いい大人の場合も似たようなものです。 私は他人の恋愛の話を聞くのが苦手です。そんなものはいつまでも意味のある結論が出ない時間つぶしの娯楽でしかなく、そういうことが脳の大半を占めている人を、ここだけの話ですが、ちょっと軽蔑しています。ですからここに書いている恋愛のフィ

恋愛映画:博士の普通の愛情

毎日一本は映画を観ています。義務でも勉強でもなく、習慣で。 好きなのはサスペンスもので、このジャンルは圧倒的に韓国映画が優れているのでそればかりになってしまいます。韓国の映画がすごいのは不可能を可能にしているからかもしれません。忖度がないのです。こういう表現だと問題が起きるかもしれない、というリミッターがありません。暴力も憎悪も徹底的です。邦画をことさら悪く言うつもりはないのですが、俳優の事務所の意向や撮影許可の問題など、「可能な範囲の裏側」が透けて見えてしまい、現実に引き

恋愛と同じ:博士の普通の愛情

最近のブームは、何か知った風なことを言ったあとに、 「それって恋愛と同じですよね」 と、まとめることです。「人生と同じ」「政治と同じ」と、何でも使えるんですが、頭の悪い感じが出るので恋愛を使っています。あまり精密に論じられることがない「恋愛」ですが、それは「愛情」とは似て非なる物です。ここのところはとても大事なはずなのに混同して語られることが多いのです。 では、愛情と恋愛はどう違うのでしょうか。

ナラタージュ:博士の普通の愛情

映画『ナラタージュ』を観た。女生徒と教師の恋愛という、ありがちと言えばありがちなお話。有村架純という女優はとても演技が巧いなと感じた。それはさておき。 ありがちな題材からはありがちな結論に向かうものだけど、恋愛とは極論すると「タブーとの距離感」なんじゃないかと感じることがある。 古くて下品な表現に、「一盗二婢三妾(人妻、使用人、妾)」というのがあるように、快楽の質はタブーを破ることと密接に関係しているはずだ。教師と生徒という関係もこれに近いのだろう。

3度目の結婚:博士の普通の愛情

野村監督の言葉ではないが、「モテる人の理由はわからないことがあるが、モテない人の理由は完全にわかる」。 今日はごく普通の恋愛の話をするようにつとめる。いつもは恥ずかしいので最後がホラーになってしまう。照れ隠しである。 この前、ある男性Aさんの話を聞いた。俺の友人のBから言わせると悪くない 男だと思って女性の前で「彼は恋愛対象としてどうか」という話をすると、その場にいた女性全員が「あの人はダメ」と言ったそうだ。 これは男女の評価の違いという問題も含んでしまっているけど、恋

カナちゃん:博士の普通の愛情

カナちゃんの実家が栃木で温泉旅館をしているそうで、そこに行こうということになった。 川沿いの細い道に、彼女の運転するクルマが入って行く。いくつも旅館が並ぶ賑やかな温泉街だ。「なかなかいいところじゃん」と言うと、「昔よりは活気がないけどね」と答える。本格的にさびれた温泉街をいくつか見たことがあるので、これくらいなら十分流行っている方じゃないのかなと僕は思った。 実家を継げと言われた彼女は温泉の仕事が嫌いだったので、なかば強引に東京に出てきたらしい。それから数えるほどしかここ

博士の普通の愛情:好かれる女性。

女性って、好きじゃない人とでも遊びに行きますよね。 あれがとても不思議なんですけど、男は嫌いな人とは会わないものです。あるとき、人数が多い集まりに参加していて、隣同士でずっと盛り上がって話していた女性二人のうち、片方が帰りました。「仲がいいんだね」と残った方に聞くと、「あの子、性格悪いから大嫌い」と言うので驚きました。 それって、「嘘をついている姿」を見せてしまったことになります。 男は演技ができないから、嫌いな人と隣り合わせになったら仲良く振る舞うどころか、ほとんど話

余命60年の花嫁。

20代前半で結婚した知人が、奥さんのことをそう言っていた。 20代の花嫁は健康で平均寿命まで生きると仮定すれば余命は60年ある。ジョークではあるけど、確かに結婚する相手との契約期間を「余命」で考えることにはちょっとした意味があるのかもしれない。 寿命はほぼ「運」であるし、先のことは何もわからない。もしうまく物事が進行したら、という前提で計画しようと考える人は多い。しかし、一流企業である山一証券に勤めているから安心だ、と結婚相手を決めたとしてもその会社は倒産した。しなくても

生きてるだけで、愛。

外国に行って感じるのは、国民性のように抽象的なモノではなく、初めて出会う、個人的な感覚であることが多い。言い方はヘタだけど、「こんな個人に会ったことがない」というような。 わかりやすく違って見えるのは、女性だ。 恋愛を軸にすると、はたして俺はこの異国の女性と恋愛ができるだろうか、と考える。すると、この土地に骨を埋める覚悟があるのか、あたりまで芋づる式にたぐり寄せることになってしまう。 便宜的に日本女性を「特殊」と位置づけることを許してもらえれば、それ以外の国の女性は、意

過去に戻って、会いたい人。

タイムトリップが題材の映画を続けて数本観ています。 今日は韓国映画『あなた、そこにいてくれますか』を観ました。何を言いたいのか、観たあとでもさっぱり理解できない邦題ですけど、それはさておき。 医師である主人公はカンボジアの老人からタイムトリップができるクスリをもらいます。その雑なプロップ(小道具)の設定は「メルモちゃん」を思い出させるほどレトロでした。 半信半疑ながらそれを飲んで過去に行くのは、昔愛した女性に会いたいという理由からです。そこには若き日の自分がいます。色々

友だちから恋人へ。

恋愛映画・漫画にありがちな展開の例をひとつあげてくださいと言われたら、「幼なじみと恋人になる」と答える人は多いんじゃないかと思う。 異性というのは近くにいればいるほど恋愛に発展しやすいと思うけど、幼なじみは恥ずかしい過去を知り過ぎていることもあってそうなりにくい。家族のようになってしまうし。でも「ずっと私を見守ってくれていたのは、結局あの人だったんだよね」と気づくという展開は、フィクションの場合はガチガチの鉄板なのである。 今日は韓国映画『今日の恋愛』を観た。 主人公の