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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2023年5月の記事一覧

デリカシー合戦:博士の普通の愛情

街で撮影をするとき、背景に人が入ってしまうことがあります。それを避けるために制作スタッフが移動してもらうようにお願いに行くのですが、場合によってはトラブルになるので、かなりの高等技術が必要です。自分がいる場所からどいて欲しいという申し出を快く思う人はいません。そんなのはお前らの都合だろう、と断られても仕方ないのです。キャリアの浅いスタッフが「すみません、そこ邪魔なんでどいてくださーい」などと言うのを見ると、慌ててベテランが飛んできます。細心の注意を払って相手が嫌な気分にならな

表情を変えずにお願いします:博士の普通の愛情

下ネタを書きます。 他人への悪口と自分の境遇の不満と下ネタは、一切書かないことにしている。これは芸がないと読まされている他人が苦痛になるから。特に下ネタは雑に扱うとIQが低く見えるし、見苦しいものです。ただ聖人君子のようにそれを避けていることばかり目立つと、これまたスカしているようで不本意なので、たまには「本気を出すとこれくらいは書くぜ」というキッチリした下ネタを定期購読メンバーにだけお届け。 ここからは、できれば電車の中などで表情を変えずスマホで読んでいただきたい。

母への爆撃:博士の普通の愛情(無料記事)

小学生の頃、よく行く場所があった。子供向けの科学展示施設のようなもので、長い正式名称をおぼえる気のない僕らはただ「センター」と呼んでいた。 ある夏休みの日、僕らはいつものようにセンターに集まった。施設にある古ぼけた原子模型などの展示はもう見飽きていた。館内の自動販売機で得体の知れないジュースを買い、クーラーの効いたホールのベンチで寝転がる。時間が過ぎていくのが遅い。こどもにとって夏休みの一ヶ月は長く、退屈だ。この時代にインターネットがあればずっとそれだけをやっていた自信はあ

モテるバンドマン:博士の普通の愛情

渋谷にいるとギターケースを肩にかけた若者をよく見かけるが、いつかこいつらの中の誰かがスターになるのかもしれないと思って眺めるのは楽しい。夢を追うのは問答無用にいいことだ。しかし、「どうやったら適切な夢の実現が可能か」なんていう参考書を読んでいる合理的な考えのヤツに魅力はない。何と言っても、ロックは破壊であり、破綻なんだから。 あるパンクバンドがレコード会社と契約するときの話を聞いた。会議室に呼ばれたバンドメンバーが書類にプロフィールを書いている。「音楽のジャンル」という項目

トートバッグ(前編):博士の普通の愛情

「他人の気持ちをコントロールすることが一番の罪だ」と思っている。 これはいつだったか、サヤカという友人の女性から聞いた話なのだが、登場人物が誰かわからないようにすればどこに書いてもいいと言われたので書くことにした。もちろんサヤカは仮名だ。 サヤカはある大手飲食チェーンの社長秘書をしていた。ほぼ毎日のように仕事がらみの会食があったが、頭がいいし容姿も優れている彼女は、取引先からの評判がよかった。社長もそれを心得ていたようだったから、いつも彼女を連れ歩いていたのだろう。 新