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デリカシー合戦:博士の普通の愛情

街で撮影をするとき、背景に人が入ってしまうことがあります。それを避けるために制作スタッフが移動してもらうようにお願いに行くのですが、場合によってはトラブルになるので、かなりの高等技術が必要です。自分がいる場所からどいて欲しいという申し出を快く思う人はいません。そんなのはお前らの都合だろう、と断られても仕方ないのです。キャリアの浅いスタッフが「すみません、そこ邪魔なんでどいてくださーい」などと言うのを見ると、慌ててベテランが飛んできます。細心の注意を払って相手が嫌な気分にならないようにしないと、クライアントやテレビ局の電話が鳴ることになるからです。

すべてはデリカシー合戦なのです。フランス映画で言えば『デリカテッセン』です。あとからやってきたベテランは、「今、あそこから撮影していまして、こちらの勝手な都合なのですが、どうしてもこちら側が写ってしまうので申し訳ありませんがご協力をお願いします」と、にこやかに言います。

その日、私たちは下北沢で撮影をしていました。それほど人は多くなかったのですが、画面の端にスマホを見ている女性がひとりだけ写ってしまうので移動してもらおうとしていました。若い制作部の男が走って行くのを見てプロデューサーは「あいつ、大丈夫かな」と不安そうな顔をしていました。彼はその女性に近づいて話していましたが、少し嫌な予感がしました。もし移動してもらえるなら、ほんの数秒で終わるからです。

「もめてるかな」
「もしかしたら。僕が行きましょうか」

プロデューサーがそう言った瞬間、私たちスタッフは思いがけない状況を見ることになりました。

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。