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魔女の宅急便@ほぼ全画面分析~その6

前回へとさかのぼって見ようとしてくださる方は下記へどうぞ。

さてストーリーを追わず、テーマも我関せず、蘊蓄やトリビアにも触れないで『魔女の宅急便』の説明を相も変わらずしていきます。
つまりアニメの「表現」だけに注目して『魔女の宅急便』を見る。その6回目。


【105】まだ街の暮らしに馴れていないキキは、同世代の女の子たちを意識しながら通り過ぎます。
そのときの表情の変化を切り取ってみました。
4枚の表情を並べてみましたが、これだけでも表情が微細にニュアンスを変えていくのが感じ取れます。
定型的・類型的な表情から抜け出た表情の多彩さは『魔女の宅急便』の特徴ですね。



【106】街の女の子たちのお洒落ぶりを見て、自分の黒服をショーウィンドウのガラスごしに見て文句を言うキキ。
ガラスに映る半透明な表現は『魔女』ならではの真骨頂ですね。


【107】物量の描き込みがすごい。
数限りない物品もすべてセルみたいに描かれていますが、遠景では背景美術として、フライパンを手にしている周囲はセルで、それぞれ描き分けていますね。



【108】お会計。合計にひやひやしているキキの表情ももちろんですが、レジスターと商品を両手でさばく女性店員さんの動作もなかなか。黒猫のマグカップも買っていますね。


【109】ショーウィンドウで見かけた憧れの赤い靴。セル表現での光沢感がよく出ていますね。


【110】街の暮らしの中でコンプレックスを抱いていたタイミングで、トンボと遭遇。
思わず負けん気になって返答するキキの表情も、丁寧に変化をつけて描かれていますね。


【111】トンボと喧嘩別れする前後のキキの「腰の位置の低さ」。
キキには酷な描写ですが、コンプレックスまみれになった姿が歩きの姿勢としてよく伝わってきます。


【112】宅急便の最初のお客さん。
いかにも都会風の女性のお客さんに、思わずひるみながら対応するキキ。


【113】宅急便の最初のお客さんになったキャリアウーマンっぽい女性。
腰をバックルでひきしぼってキリっとした感じが、背中の簡略化した描線で見事に描かれています。


【114】黒猫同士のご対面。
「同じもの・が・向かい合う」。
そして何気にこの瞬間、画面のすべてがセルで出来ている「全セル」空間。テーブルやレジの造形、籠の編み模様もセルで表現されています。


【115】籠の中のぬいぐるみの黒猫と対比させるためでしょうか、ジジの目の輪郭が、いつになく独特に(アーモンド形?に)描かれています。
そしてジジの背景はピントのあってない「マルチプレーン」処理。


【116】地図をにらめっこして届け先を確認するふたり(とジジ!)。
真ん中でオソノさんが気楽な感じで野次馬顔。
そう言えばこのお客さんもずいぶん立体的な造形のヘアスタイルですね。


【117】はじめての商いで、まだ賃料を決めていなかったキキに、お客さんはスマートに「心づけ」を渡し、その額におどろくキキ。その微細な表情の切り取り方も確かなものがありますね。


【118】キキの最初の届け物のお使いに飛び立ったところを発見し、尻たかだかに自転車を漕ぐトンボ。
この構図と姿勢もユーモアたっぷりな描写ですね。


【119】宮崎アニメにあって「飛ぶ」ことは当たり前だったりするので、こんな風に飛ぶこと自体にひとがおどろく様は案外ないのではないでしょうか。
見上げるふたりを切り取るその構図と、その切り返しも、案外なかったパターンではなかったでしょうか。


【120】飛び立ち上昇するキキ。
背景の街をカメラは回り込みます。
これは撮影の段階で、背景美術をセッティングした台を、回転させながらの撮影になります。


【121】街を見下ろす構図から、そのままキキの全身を追うかと思うと、一転、視点は上空へ移っています。
キキが全身像で画面をおおったとき、背景が入れ替えられている仕組みですね。
ひとつなぎの・ワンカットという趣向です。凝ってます。


【122】飛んでいるキキの下を、「垂直方向に・十字で交じわる」ように飛行艇が通り過ぎています。
「十字に運動が交わる」さまは『ナウシカ』でもありましたね。


【123】上空から地図をかざして、画面の左にひろがる実際の地形(背景美術)と、右に位置する同じ地形の地図(セル表現)とに、きれいに分かれて・それぞれに描かれています。セルアニメならではの対照性を表現した面白さですね。


【124】届け物の行く先がわかり、意気勇んで「はしたなく」滑空するキキ。
こんな上空に滞留してたら、これ、怖くないか?とふと気づかされる瞬間があるシーンですね。


【126】ここもキキと自動車(2台)が、運動を十字に交わらせていますね。
上空を右から左へ向かうキキ。橋の上をまっすぐ右から左へと走る車。橋の下を「奥から手前へ」と向かうもう一台の車。
宮崎アニメはこういった「複数の運動が・さまざまな形で交錯する」という特性があります。


【127】生き物には疎い論者ですが、キキの言葉を信じれば雁なのだそうです。
何羽もの・見分けのつかない「同じものが・似たようで/違うような」運動をする。
これも「運動の複数性」ですね。


【128】後から飛んできた雁の群れはキキたちを追い越していきます。
なにげなく提示される「運動同士の行き交い」の面白さ。


【129】宮崎アニメが「飛ぶ」シーンで名高いとすれば、その「飛ぶ」はいつだって「風」との協調もしくは抗争なのでした。
「見えない・風」が襲ってきた様子が「運動」として見事に描かれています。


【130】突風に襲われるシーンより。
コマ送りで見ていると、こんな絵が混ざっていたんだと驚かされます。


【131】突風にあおられてホウキからすべり落ちるところを、なんとか持ち直そうとするキキ。
虚空で暴れるホウキの上にまたがろうとする演技は運動的に立体的で、難しそうですね。


【132】今度は鳥たちに襲われる立場になって、この無数の鳥たちの動きをつけるのも、さりげなく大変そうです。


【133】鳥たちにホウキをついばまれる。
ここは面白い発想ですね。
ホウキが「記号的」な存在でなく、食べられる対象だったと、「実体」感を帯びて視る者に感受されてきます。


【135】なんとか届け先に着いたキキ。
全景が背景で描かれていて、前庭に駐車している車だけセルで点描されていますね。
家の影も背景で描いているんだと気づくと、個人的にはおどろきます。


【136】甥っ子へのプレゼントと言っていたので、この女性はあのキャリアウーマンのお姉さんでしょうか。注目ポイントはヘアスタイル。ねじりパンみたいな立体造形ですね。


ここらへんで「その6」を終わりにします。
ひきつづき「その7」を楽しんでいただけたら。


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