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魔女の宅急便@ほぼ全画面分析~その5

前回「その4」はこちらから。

『魔女の宅急便』をごく私的に・見どころを紹介していくシリーズの五回目です。
わたしの独自なアニメの見方には癖があって、以下のリンク集を見ると、この『魔女』のまとめも見やすくなるかも知れません。


【82】オソノさんのヘアスタイルは、真ん中にコブが突き出たような、独特な造形ですね。この特徴は他のキャラクターのヘアスタイルでも確かいたはず。また登場したら指摘します。


【83】いろんなパンが並んでいますね。全部セルで描かれています。セルの造形で食べ物を描かれると、何で楽しい気持ちになるんでしょうね?

【84】パンをつくる工房とダイニング。
オソノさんの進行する方向と、部屋を映す構図で、家屋内がどのような構造になっているか一発でわかるようになっています。
あと、家具のひとつひとつがセルか背景で処理するかの塩梅もいいですね。絶妙なさじ加減。


【85】コーヒーを淹れるオソノさんのこの表情。類型的・定型的でない表情。
演出や作画監督、担当アニメーターがどんな「意図」をもっているかわからない、一種の「違和」感を視聴者は感じて、気持ちがひきつけられる効果がありませんか?

【86】湯気の演出。デジタル処理できないなかでの奮闘もありますが、薬缶の湯気は頭部だけがぼやけてますね。
どうやってこういう表現ができたのかな。
ダブラシではなくブラシで処理しているのでしょうか。
誰かご教示願えれば。


【87】資材置き場を借りぐらしすることになったキキたち。
部屋を切り返すと、空間の開放性がぐっと深まりますね。
空間造形の見事さ。

【88】ジジの足跡はどうやって「足して」いく処理しているのかな?
そんなことを思わせるうまい視せ方。
演出の妙にだまされてしまいますが、実際に足跡が新らしく生まれるのは、右前足の踏み出し一歩だけだったりします。


【89】宿る場所は決まったものの、これからどうなるんだろうという不安の表情のキキ。
表情が微細に変化して、類型的にならない表情のニュアンスがもたらす感情の豊かな潜在性。
『魔女の宅急便』はほかのどんな宮崎アニメより、このささやかな表情のニュアンスにこだわっているように思えます。

【90】翌朝、霧の立つ海面。
わたしたちは『魔女』から後年に、『ポニョ』という作品が作られることを知っています。
だから、海面のこの揺らぎがもう『ポニョ』そのままであることにも気づけるのです。
この海面のゆらぎを発展させていくと『ポニョ』になる。水の表現の、隠されたポテンシャルがここにあります。


【91】朝まだき、寝返りをうつキキ。シーツからはみだす足。
ストーリーの展開には関係ない、微細なディティールは、単純に「視る喜び」を与えてくれます。


【92】キキが枕にしていたのは自分のバッグだったんですね。
こういう、「ひとつの用途のモノが、別の用途に使われる」という「表現としての面白さ」だけでも、ジブリアニメやさまざまなアニメから拾い集めていくと面白そうですね。


【93】背景美術が圧倒的に画面を占めるようでいて、セルなのはキキだけでなく、お手洗いの戸もセルなんですね。うまく背景と溶け込ませています。


【94】パン屋の若旦那。ひとが見ていないところでは、こんなお茶目な屈伸運動をする。
こういう表現の細かい多彩さが(ストーリーの大筋とは別に)この作品を楽しませるものになっている肝ですね。


【95】なけなしのヘソクリを勘定するキキ。
紙幣や硬貨がセルとして表現されている視る楽しさと、金銭勘定に切実なヒロインの手つき。
キキの頭のリボンは使われていないとき、あんな風に一本の帯なのですね。


【96】キキのかたわらには常にジジがいて、ただ「異見」を表明するだけでなく、キキとは別の存在として・別の動きを共存して見せる「運動の複数性」を常に担保しています。


【97】窓を開けるキキの動作。窓のガラスの表面に映る光。
ここは自信がないですが、窓越しのキキはダブラシではなくて、陰った色指定をしているのでしょうか?
一方窓の照り返しごしに、室内の斜めに走った梁は、ダブラシで処理しているのでしょうかね?

アニメ演出家・佐本三国(@dezakinian)さんからアドバイスいただきました。
【97】は窓の照り返しのみセル画でダブラシして、窓枠の影になっているところは単なるヌキなのかもしれません。デジタル合成じゃない時代に本当に工夫の連続ですね。恐るべしです。


【98】お笑いのネタにもされる若旦那のお茶目な特技披露。ジジという「男同士」だけに見せた仕草でもありますね(こういう男同士の関係をホモソーシャルと言います/ホモセクシャルとは違いますよ)。
若旦那の得意そうな表情と独特の身振り。


【99】この箇所を見て、「売り物のパンを、素手で持ってる!」とびっくりしたひとはいますか?
コロナを経たわれわれの衛生観念の変化。なんとそれは移ろいやすいものなのでしょう。
この、素手でパンを持つ仕草を、違和感なく見れる日はふたたびやって来るのでしょうか。


【100】オソノさんから住居・仕事の好条件を提示されて、キキははりきってしまい、あわててその動作を避けるオソノさんでした。オソノさんの態勢の演技も細かく・ダイナミックですね。


【101】床を拭き終わって立ち上がり、作業で邪魔になっていたので服の裾を結んであったのをとく。
ひとつひとつの動作が、理にかなった処理でほどこされた演出。
裾が解かれたときのなびき、という動きの細かさ。


【102】パン屋のショーウィンドウに、店内が半透明で、店の外の様子もガラスで透けている「二重露光」の撮影処理効果。
その店頭をさらにひとが歩くので「マスク」処理もしないといけないので、処理の考案とその処理指定とその実作業などなど面倒くさいカット。


【103】空間造形と運動の交わりの見事さがすごいです。
窓から顔を出しジジを左上方向に呼ばわる
⇒キキが顔をひっこめたところでジジが意想外に窓の右側から下りてくる
⇒キキはさらに右手にある出入口から顔を出して、ジジと動きを同期させる。
設定した空間をフル活用している演出のすごみですね。


【104】まだ街に馴れていなくて、左右を核にせず車道に出て慌てるキキ。
注目ポイント?は半ば呆れてるかのオジサンの造形。若はげ、肥満体、スポーティな装い、ポケットに手をつっこんで。あまり宮崎アニメでは出てこないタイプ。

このへんで「その5」を終わりにします。
「その6」でまた会いましょう。


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