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魔女の宅急便@ほぼ全画面分析~その7
ストーリーを追わず、テーマにこだわらず……
アニメの「表現」だけ注目した『魔女の宅急便』論。その7。
前回「その6」に戻る場合はこちらへ。
【137】やわらかい生き物(猫)であるはずのジジが、ぬいぐるみを装って、絨毯の上を「堅い・感じ」でバウンド。設定=物語(猫)と動き(堅いぬいぐるみ)とが「拮抗」し合った面白さ。
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【138】ジジが横たわる絨毯の刺繍(?)の「布地」感。こんなリアリズムな背景に、こんな簡略化されたセル画が重なっても、違和感なく見れるのは「これぞ、セルアニメのお作法」にかなっているからですかね。
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【139】言い忘れましたが「セルアニメのお作法」に沿っているのは「われわれ視聴者」です。背景美術(絨毯)とセル(猫)では、絵の様式が違って、なにが悪いのでしょう?
それにしても「硬直」を演じている(?)ジジの姿かたちもよく造形されていますね。
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【140】猫と犬が対面しています。
猫はぬいぐるみを演じているとは言え、あまりに戯画化されていて、犬はそれに対して造形が細かいです。
この両者の質感の対比も面白いですね。
細田守さんもケモノを描くのが好きですが、まだこういう芸当までには至ってない印象がありますね(ゴホン、ゴホン!)
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【141】本物の猫のぬいぐるみを探しに森の中へ。木の上を見上げるキキ。頭上の枝がピントがぼけているのがわかりますか。アナログ時代の大変な技術「マルチプレーン」でしょうか。それともセルにぼやかして描いた枝のブックでしょうか?
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【142】ぬいぐるみがログハウスのなかにいるのを見つけたキキ。窓に映った森。でもこれ……ただのダブラシ(二重露光)じゃなさそうですね。窓の表面に森がそのまま描きこまれている可能性も大です。
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【143】森の影は窓の表面に直接描きこまれていそうですが、キキのリボンはダブラシ(二重露光)で処理されていそうですね。こういう、場面場面に応じて、必要「最小限」に効果をつかう宮崎さんの融通無碍さは大したものですね。
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さて、このカットの詳しい分析を、演出家の佐本三国(@dezakinian)さんがしてくださいました。↓
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結論から言うと、俺の知識ではフィルムの多重露光を正確に再現する事は出来ませんでした。
そもそも原理がまるで違うんだなと思いました。
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こうすればフィルム撮影でも最小の手間(WXP+スーパー)で出来るのではなかろうか。
もちろんデジタルなら簡単に近い処理は可能だと思いますが。
佐本さま、ありがとうございました!
【144】ログハウスに入ろうとするキキい。何がセルとして描かれ、何が背景で描かれるかの処理の違いに注目です。
効果、省力化、画面のバランス、それらを総合的に判断しているんだと思います。
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【145】どうですか。セルと背景の描き分け。
この際、じっくり堪能してみましょう。
背景にセルのトレース線が乗っているところもあります。
単純に言って、「画面の感じ」がこのカット群では違いますね。
絶妙に背景美術とセル画(セルトレース)の審美的調和がとれている。
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【146】まだ仮説なんですがセルアニメに「空間の感じ」を与えるのって「セルと背景の噛み合わせ」だと思っています。
この梯子段に足や手をのせてる瞬間、このときセルと背景は「協同作業」をしていると思うのです。セルだけでもダメ、背景だけでもダメ。両者が協力してこそ実現する「梯子に手をかけ、のぼる」んです。
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【147】この梯子ごしのキキの顔も、「セルと背景の協同作業」としてどうなっているか。キキの顎をさえぎる梯子。これはセルをどう処理しているか2種類選択肢あるのわかりますか?
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【148】答えあわせ。
予想1~背景の梯子の枠に沿ってキキの顔のセルは「欠けている」。
予想2~キキのセルは全身像そろっていて、その上へセルに描かれた梯子を乗せている。
どっちなんでしょうね(答えはわたしも知りません)。
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【149】これも、ウルスラがまたがっている屋根の上で「背景とセル画の協業作業」が介入しています。
つまり、またがって見えない左足は「描かれていない(省略している)」。梯子段にかけたキキの手指はも「描かれていない(省略されている)」。
そうやってセルと背景が無駄なところをかばい合う「協同作業」の成果なのです。
単に効率化とも呼ばれますね。
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【150】ウルスラが鳥の絵をスケッチしています。
「セル(絵)として描かれた人物」が「スケッチ(絵)」を描く。
つまりが「絵が絵を描いている」。
面白い現象に立ち会っています。
「描かれたわたしもさらに絵を描くのです」と告白しているのです。
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【151】セルと背景の「噛み合い」とは、歯車の噛み合いをイメージして言っています。
このウルスラ(のセル)もログハウス(という背景)にさえぎられ、からだの一部が「隠されています」。
ログハウスの柱に沿ってからだの線を切り取られているパターンではなさそうですね。
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【152】ここはすごいな!と思ったのは、ぬいぐるみを演じているジジがどこか「記号的な・堅さ」で振る舞っていたのに、ここにきて当のぬいぐるみの方が首がもげてしまい、綿が出てきて、「物質感」が現れるという対比・逆転現象ですね。
演出的にすごい冴えてますね。
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【153】床磨きが得意なキキ。
それにしても窓の反射といい、床の反射といい、半透明な映り具合を出す「二重露光=ダブラシ」がこの『魔女』という作品の隠しテーマであるかのようです。床に映ったキキの手首の揺れ具合は『ポニョ』の水世界を予告していますね。
バケツの中の水は撮影処理はありません。
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【154】わたしが個人的に好きなんでしょうね。
こういう風に背景と「噛み合う」ように、さまざまな「セルで描かれたモノたち」が雑然と提示されるだけで、「景色として」楽しくなってきます。
さっきの無人の部屋のときより、「セルで描かれた家具」の数は断然多いですね。
「止め絵として・セルで描かれた小道具類」はセルという性質上(「動く」のがセルの至上命題ですから)、人間の生命感と響きあうのでしょうね。
だから部屋が無人だと、小道具類も背景という「静態」化がほどこされる。
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【155】これもさっきのスケッチするウルスラと同じ、「絵の中に絵が」ありますね。
セルアニメのなかにテレビがあって、そのテレビのなかにもうひとつのアニメが息づいている。
こういう風に「絵の中にさらに絵がある」様子を指して「アニメーションが『自己紹介』してる」と言います。哲学好きな学生なら「自己参照/再帰性」という言葉を使うかもしれません。
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【156】これ、画像で伝わりますかね?
犬の背中にブラウン管の光が点滅しながら反射しています。
撮影処理の仕組みとしては「二重露出」(ダブラシ)と同じですが、「照り映え」ている場合(つまり光っている場合)は「スーパー」(露出オーバーを使う)処理になりますね。
動画として見てみますと、点滅する加減からして「スーパー」っぽいでしょうね。
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【157】犬と一対一になり、恐怖で汗を大量にかくジジ。
この汗のしたたり落ち方は、リミテッドアニメ(3コマ打ち)からフルアニメ(おそらく1コマ打ち)へと「動きがやわらかく・変化」しています。
リミテッドとフルは、アニメ学者たちのうたう通説とは違い、対立物でなく共存できるものなのです。
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【158】犬に舌で舐められてびびって「伸び縮み」するジジの動作は解説の必要もなく、ただ愉快かつ高等技です。
そしてなにげなく動きとして提示されていますが、四足動物の歩きの動作(しかも半円を描く軌跡で歩くの)は、なかなかの高度な作画ではないでしょうか。
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【159】ここも撮影の処理として、二重露出が使われてます。
扉と窓枠(の背景美術)は、「影色のもの」と「照らされたもの」との二種類が用意されており、撮影時にフィルム上で二重に(光加減を変えながら)撮影されて、あたかも暗いなかから明かりが生まれたような効果が生まれます。
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【160】外から屋内の団らんが見えて、その様子が光り輝いて見える。
こちらは撮影処理の名称としては「スーパー」。
フィルムの撮影処理の仕組みは二重露出と同じで、二種類の素材を二重に撮影して出る効果です。
スーパーの場合、特別なのは、一方の素材を露出オーバー気味に撮影することで、光り輝き・照り映える効果が出ると言っていいでしょう。
と知ったように言っていますが、この窓にはりついたレースなんですよね……
このレースの存在でスーパーが「効いていない」箇所があるんですよね。左のカーテンが顕著に。
さて、いったいどんな処理がされているのでしょうか?
それにしてもケーキにかかるレース模様といい、お祖父さまの背にかかるレース模様といい、度を越した繊細さな細工……
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【161】室内から見た扉は、開けるアクションがないので「背景美術」で処理しています。
一方、外から見た扉は、開けるアクションがともなうので「セル画」で。
それぞれの用途に応じて描き分けられています。
意識して見ていても、不自然さはないですね。ちょっと驚きです。
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【161】ここまで「背景とセルの噛み合わせ」を強調してきた立場上、ここの車も「背景美術」でもいいような気もしますが、あくまで「存在感として・質感として」セル画が選ばれたのでしょうね。
そこは杓子定規でなく、演出上の美学・原理(と、ちょっとばかりの趣味)があるのだと思います。
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【163】あらためて二匹の黒猫が同じ画面で共存。
「質感・躍動性・静態的」などいろんな意味でコントラストが活きていますね。
ここまで二匹のネコがそれぞれ生きてきた、奇妙な入れ替わり計画の役割もプラスして、ふたつの猫の質感が複雑に交錯するようでもあります。
「同じものが、似たように/違う風に存在する」のもアニメの魅力です。
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【164】ここにきて極私的な関心だとわかってて言うのですが……
このシーンの車の「球面状の・存在感」が、いかにも宮崎アニメ!という感じなんですよね。
案外賛同してくれるひとも多いかと思います。
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ちょうど作品の流れ的にはBパートがここで終わった、という感じでしょうか?
「全画面分析(ほぼ)」の「その7」もここらへんで終わりにします。
次が気になる人は「その8」へ。
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