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短編vol.1「カラフル」

【登場人物】
春川香織   高校1年生~22歳 小説家志望 ヴィラ館川の管理人

錦織海斗   高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人 
輝澤岬    高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人
天知幹康   高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人
龍山寺大地  高校3年生~大学2年生 ヴィラ館川の住人

館川ゆかり  52歳  春川香織の叔母 ヴィラ館川のオーナー

3月も終わりの昼下がり
洋館のような外観の下宿
ヴィラ館川の前に立っている春川香織。

ゆかり  香織ちゃん! 待った?
香織   ゆかり叔母様。ご無沙汰しております。
ゆかり  ん?
香織   ……ゆかり・さ・ん。ご無沙汰しております。

香織とゆかりは抱き合う。

ゆかり  ふふふふ。
     ちょっと見ないうちに大きくなっちゃって
香織   ちょっと!?
     どこ触ってるんですか!
     もう22ですよ。
ゆかり  あら早いわね。
香織   えっと最後にお会いしたのは……7年前です。
ゆかり  7年……確か……香織ちゃんは。
香織   高校1年生でした。
ゆかり  そうよ! そうよ!
     東京の高校に入学決まっていたのに、
     姉さんが急にロンドン行くって言うから……。
香織   そうです。
     お母さんったら新しい仕事がはいったからって。
ゆかり  ごめんね。自分勝手な姉で。
香織   本当に自分勝手。
     すっごい頑張って志望の高校に受かったって言うのに。
     私もロンドンに一緒に来なさいって。
     あの時は本当に頭に来たわ。
ゆかり  ふふふふ。
     懐かしいわ……突然私の家に来て
     「ゆかりさん! 私家出してきました!」
香織   その節は若気の至りとは言え、本当にすいません。
ゆかり  いいの、いいの。
     それにタイミングが良かったのよ。
     ちょうど管理人に辞められて困ってたから。

香織とゆかりはヴィラ館川のドアを開ける。
ドアを開けるとリビングが広がっている。
香織は7年間過ごした無人のリビングを見つめる。

香織は昔を思い出すようにゆっくりと目を閉じる。

―*―【香織の思い出】

「おい! 映像チェックするぞ」
「オッケーです」
「その前に監督。キャストの写真見てよ」
「監督! 予算オーバーしてますから気をつけてください」

モノクロだった香織の思い出がカラフルになる。

4人の男性が勢いよく現れ楽しく話をしている。

カメラを持った金髪の輝澤岬。
眼鏡をかけた長身の天地幹康。
派手な服装の錦織海斗。
皮ジャンを着た黒づくめの龍山寺大地。

―*―【7年前の出会い】

香織   本日からヴィラ館川の管理人になりました春川香織といいます。
     精一杯がんばりますのでよろしくお願いします。

4人は香織の方を一度は見るが、直ぐに会話を再開する。
香織は無視をされてイライラしているが我慢をしている。

海斗   チョイチョイみんな!
     新しい管理人さんが来たよ! 
     えっと香織ちゃん高校生?
香織   はい! 今年から緑原高校……。
海斗   マジ!同じじゃん。
香織   同じ?
     皆さんも緑原高校に通っているんですか?
海斗   そう。3年生。
香織   先輩なんですね。
     良かった。いろいろ教えてください!
海斗   オッケーオッケ!
     ま! そんなことよりまずは僕達の紹介をしないとね。
     僕は錦織海斗よろしく。
     で! こっちのカメラをいじってるのが。
岬    (香織をじっと見つめて写真を撮る)照澤岬。
     ナイスショット香織、キュートな顔するね。
海斗   次に!
     パソコンいじってるのがミッキー。
幹康   (パソコンから顔をあげて)
     初めまして私は天知幹康と申します。
     こいつらの家賃は私が管理人さんにお渡しますので、
     何かあったらおっしゃってください。
香織   あ……ありがとうざいます。
     あのう……私の事は香織で丈夫なんで。
     管理人って言われても……
     なんかこうしっくりこないって言うか……。
幹康   分かりました。
     ガキみたいな連中がばっかりなんで大変でしょうが、
     頑張ってくださいね香織さん。
香織   はい。
海斗   そして最後に!
大地   ……(ソファーに横になっている寝ている)
海斗   監督! 監督!
香織   監督?
大地   ……。
海斗   はぁ……(大地の傍に行って)龍山寺大地でぇす!
     監督! ほら新しい管理人さんだよ。
     挨拶して。
大地   (起き上がって)なんだよ! だっせぇ服着てんな? 
     どこで買ったんだ? 
     (ジロジロ香織を見て)
     おい。どういうセンスしてるんだ? 
海斗   監督!
     香織ちゃんは管理人。モデルさんじゃないんだからね。
     思っていても口に出しちゃ駄目だよ。
大地   陰口言われるよりいいだろ。
     なぁ?。
香織   ……。 
海斗   監督。 
     ゆかりさんからの伝言を忘れたの? 
     次に管理人さんが辞めたら僕達が追い出されるんだよ。
大地   いやいやいや。見たままを言っただけだろう。
     なぁ、幹康もそう思うだろう。
幹康   香織さんはゆかりさんの姪御さんだ。
     仮にだ。香織さんのセンスが悪かったとしても。
     無理に第一印象を悪くする必要はないと思うが。
海斗   それに可愛いじゃん。
     (岬に)ねぇ!
岬    (カメラを覗き込んで)
香織   あの! 
岬    (写真を撮る)グッド! 怒った顔もなかなか。
香織   いいですか! 
     私を好き勝手言うのは構いませんが。
大地   はははは! 
     聞いたか? 良いってよ。
香織   私は!
     ゆかりさんから頼まれたヴィラ館川の管理人です。
     だから皆様のごはん。お部屋のお掃除。洗濯……。
大地   はいはいはい!
     よろしくお願いしますね。管理人様。
     あ! ひとつ忘れるんじゃねえぞ。 
     何があっても俺の部屋には入るんじゃねぇぞ。
海斗   監督! 
     ごめんね、香織ちゃん。
     部屋の掃除は自分でできるから。
     それに年頃の男性の部屋に年頃の女性が入るのは
     ちょっと気になるでしょ。
香織   あ……そうですよね。
幹康   すまなかった。
     この馬鹿な監督は語彙が少ないのが難点でな。
     ま……馬鹿の言う事だ悪気はないと思ってくれ。

―*―【現代 ゆかりと香織 ヴィラ館川のリビング】

ゆかり  ははははは!
     それが管理人初日の出来事ってわけね。
     痺れるわね。
香織   もう。
     初日はゆかりさんに一緒に来て欲しかったですよ。
ゆかり  ごめんね。
香織   あいつらの第一印象はマジ最悪。
ゆかり  黙っていればいい男ばっかりなのにね。
     自分勝手で映画馬鹿で。
     どうしようもない奴らだったわね。
香織   本当。どうして私の周りには自分勝手な奴が集まるんだ。
ゆかり  ふふふふ。
     ねぇ? 
     今はどうしてるの? 知ってるんでしょう。
香織   今は……多分……変わってないですよ。
     映画馬鹿で自分勝手。
ゆかり  ハリウッドだっけ?
     本当に遠くに行っちゃって。
香織   そうですね。
     でも来月、映画コンクールに出展するとかで戻ってきますよ。
ゆかり  毎朝新聞の映画コンクールね。
     あいつらようやくリベンジするのね。

―*―【7年前 みんなでリビングで談話】

香織   ええ! 
     みなさん映画を作ってるんですか?
海斗   自主映画をね。
香織   すごい! 監督は。
海斗   ……(大地を見る)
香織   ……ああ。
     なるほど……監督さんどうですか調子は?
大地   あ! なんだよ、管理人!
香織   なんでもありません。
海斗   で! 
     ミッキーがプロデューサー兼製作全般。
     僕達の映画の要。
香織   幹康さんがプロデューサーなら安心ですね。
幹康   そんな大層なものじゃありません。
     私はこの馬鹿な監督の尻拭い役です。
     ああ……そうだ監督。
     この前一緒に映画を撮った女性を覚えていますか?
大地   ああ。
幹康   監督と個人的にお近づきになりたいらしいですよ。
     いったい何をされたんですか?
大地   知らねぇよ!
     勝手に1人で盛り上がってんだろ。
海斗   不思議なんだよね。
     性格すんごい悪いのにもてるんだから。
香織   本当にそうですね。
大地   うるせぇよ!
海斗   監督。
     女優さんは丁寧に扱ってくださいよ。貴重な人材ですからね。
     それで岬は。
香織   カメラマンですね!
岬    ノー! キャメラね! (ビデオカメラをもって)
香織   キャメラ。
岬    グッド!
香織   あれ……じゃあ、海斗さんは?
海斗   僕は映画の衣装やら小道具やらキャスティングやら。
     裏方全般かな。
香織   海斗さんが裏方って不思議。
     みんなの中で一番明るいのに。
海斗   ありがとう。
     でも僕はね。みんなと違って特別な技術が無いから。
幹康   何を言ってる。
     監督は海斗が選んだ衣装とキャスティング以外は
     首を縦に振らない。
     監督と同じ趣味で、監督の求める物を持って来れるのは
     海斗ですよ。
海斗   ミッキー嬉しいこと言ってくれるね。
香織   すごいなぁ。
     高校生なのに映画を作るとか信じられない。
幹康   香織さん。
     別に凄いことではありません。
     世界中には私達と同じ年から映画を撮り続けている人は
     沢山います。
香織   そうなんですねぇ。
大地   テメーみたいにゆるい世界で生きてるんじゃねぇんだよ。
     俺達は世界中の奴らを驚かせる映画を撮るんだよ。
     おい岬! ここの構図なんだけどな。

大地と岬が熱心に話している。

香織   映画はいつから始めたんですか? 
海斗   1年生の頃みんな同じクラスでね。
     何のきっかけかは忘れたけど映画の話で盛り上がって。
     気付いたらマニアックな話に没頭しちゃって。
     ……そうそう。
     マニアックな映画話で最後まで盛り上がってたのが僕達4人。
     あれ……何について話してたっけ?
幹康   黒澤明監督の蜘蛛巣城。
海斗   そうそう。懐かしいなぁ。
大地   おい! 管理人。
     これテメーが書いたのか?(原稿用紙の束を持って)
香織   え、どうして!
大地   そこに置いてあったぞ。
香織   ちょっと! 見ないで! 返してください!
大地   嫌だね。
香織   お願いします。
大地   (香織に投げつける)ほれ。
香織   投げないでくださいよ。
     もう……いい加減にしてください。
    (人に見られたくないので散らばった原稿用紙を拾う)
海斗   へぇ……香織ちゃん小説書いてるの?
香織   そんな……ただ……ちょっと書くのが好きで……趣味程度です。
大地   趣味程度ね。
香織   それどういう意味ですか。
大地   分からねぇのか? 聞こえたとおりの意味だ……。
幹康   監督。
大地   分かったよ。
香織   あの!
     読んだんですよね、私の小説。
     どうでしたか? 
     ……大地さんて監督ですよね。
     映画の脚本は自分で書くんですよね。
     あの……大地さんの感想聞かせてください。
大地   キャラクターの書き込みが甘い。
     構成が場当たりすぎる。 
     展開が分かりすぎて先を読む気がしない。
     小学生だってもっとましなの書けるぞ。
海斗   ちょっと! 監督!
大地   こいつが感想が聞きたいって言ったんだぞ。
     おい岬! 部屋で映像見せてくれよ。
岬    オッケェ。
     香織気にしないで。 
     大地。結構真剣に読んでたから。
香織   はぁ。
幹    監督は語彙が足りていないので、
     ああいう言い方以外知らないだけです。
     本当に下手なら何も言いません。
     馬鹿なりのアドバイスですよ。香織さん。

―*― 【現代 ゆかりと香織 リビングで話す】

ゆかり  はははははは。
     大地らしいわね。
香織   笑い事じゃないですよ。
     本当にあの時はショックだったんですから。
ゆかり  そういえば香織ちゃん。
     文藝文壇の新人賞受賞。
     本当におめでとう。 姉さんには伝えたの?
香織   はい。
     お母さんも喜んでました。
     で! 何て言ったと思います?
     今になって「ずっと一人にしててごめんね。さすが私の娘。
     良く頑張ったわねって」
     本当に自分勝手。
ゆかり  姉さんらしいわ。
香織   ゆかりさん。
     今まで本当にありがとうございます。
     ようやくこれでスタートラインに立てました。
ゆかり  大地やみんなには報告したの?
香織   (首を振って)……賞を取る為に小説家を目指した訳じゃ
     ないんで。
     私の夢は……。

―*―【5年前 雨が強く降っている夜】

大地がリビングで管理人を探している。

大地   おい! 管理人! 晩飯はどうした? 
     おーい管理人……おい幹康。管理人は?
幹康   こっちにはいませんね。
岬    ハングリー! ハングリー!
     あれ? 香織はまだいないの?
大地   いねぇんだよ。
岬    おかしいね。
     今までこんなこと無かったのに……まさか?

幹康と岬は大地を見る。

大地   なんだよ。
幹康   監督。
     怒らないから正直に言いなさい。
     香織さんにまた何か言いましたか?
大地   言ってねぇって。
幹康   いいですか。こんな安い家賃で私達が好き勝手生活できるのは、
     ヴィラ館川とゆかりさんの後ろ盾があるからですよ。
     次また管理人が辞めることあれば……。
大地   だから! 別に本当に何もしてねぇって。
海斗   ただいま! 香織ちゃんいる?
幹康&岬 いないよ。
海斗   やっぱり。
大地   やっぱりってなんだよ。
     だから俺は何もしてねぇぞ。
海斗   これ見た?
幹康   文芸文壇ですか?
海斗   香織ちゃんこれに応募したみたいなんだよ。
幹康   なるほど新人コンクールですか……。
     (雑誌をめくる)なるほど……見事に落選したみたいですね。
     ここ半年夜遅くまで執筆してたのはこの為でしたか。
岬    そうだんったんだ。
     それなのに朝早くからみんなの朝食作って。
海斗   香織ちゃんはショックだろうな。
大地   あいつ……。

―*―

雷が鳴る。
それから2時間。
香織は帰ってこない。
雨は強くなる嵐になりそうな夜。

海斗   帰ってこないね。
幹    1時を回りましたか……さすがに心配ですね。
大地   一回ぐらい落選したからって……。
     ま! あんな文章しかかけねぇンだ。
     もともと才能がねぇんだろ!
海斗   そんな言い方は良くないよ。
大地   どうしてだ?
海斗   才能があるとか無いとかじゃないでしょう。
     香織ちゃんは頑張ってるんだよ。
     どうして素直に応援してあげないの。
大地   いくら頑張っても無理なもんがあるんだよ。
     俺はただ身の程を知れって言ってんだよ。
海斗   大地……それって自分のこと言ってるの?
大地   海斗てめぇ!(海斗の胸ぐらをつかむ) 
幹康   やめろ大地! 海斗もいい加減にしろ。
大地   くそ! 
岬    監督。どこ行くの?
大地   管理人探しに行くんだよ。 
     お前達は行かねぇのか?

雨の中で香織を探す4人。

―*―
公園のベンチに座っている香織。
泣いている香織を見つめる大地。

大地   おい!
     てめー何やってんだよ。
香織   ……大地さん!
大地   ふざけんじゃなぇよ!
     どれだけ探したと思ってんだよ。
香織   え?
大地   え? じゃねぇよ。今、何時だと思ってんだよ。
香織   あ……すいません。

香織は立とうとするがうまく立てない。
大地は香織を支えてゆっくりと座らせる。

香織   ……すいません。

俯く香織を見つめる大地。

大地   ……おい! 横座っていいか。
香織   はい。
     あ……どうぞ……これ使ってください(タオルを渡す)
大地   ああ。(雨で濡れた髪を拭く)
香織   ……。
大地   新人コンクール落選したんだって?
香織   ……。
大地   ……わりぃ。
香織   ……いいんです。私……才能ないんですよ。
大地   ……。
香織   ……お腹すきましたよね、帰って何か作りますね。
大地   (香織の手を掴む)
香織   ……大地さん。
大地   読ませろ。
香織   はい?
大地   読ませろって言ってんだよ。
     てめーの小説。
香織   ……はい。(原稿を渡す)
大地   (無言で受け取り真剣に読む)

香織は自分の作品を真剣に読む大地の姿を見つめていた。
雨は小降りになりようやく止んだ。

大地   (香織に原稿を返す)
香織   どうでしたか?
大地   審査員は正しい。
     落選は当然の結果だな。
香織   ……。
大地   だが才能がねぇとは思わねぇ。
     この前読んだ時よりキャラクターはしっかり描けている。
     ただ……前も言ったろ。
     構成が稚拙すぎる。作品の大筋がどんだけ良くてもバランスが
     悪いと全てが駄目になる。
     てめーは読み手のことがまるっきり分かってない。
     書きたいことを書いてるだけだ。
香織   はい。
大地   いいか。
     思いついた内容を上から順になぞるだけじゃなくて、
     読み手がどこで前のめりになる良く考えて書け。
     映画も小説も同じだ。
     見て読んで心を動かされた時はじめて作品になるんだ。
香織   はい!
大地   それと……(香織の真剣な目にたじろき)……なんだよ。
香織   大地さんありがとうございます。 
     ちゃんと読んでくれて、ちゃんと私の事考えてくれて。
大地   ちげぇよ! 俺はテメーの小説をだな! 離れろ。
     まぁとにかくだ。
     てめーは勉強が足りねぇんだよ。
     ああそうだ。
     今度から俺達の映画手伝え!
香織   え?
大地   「え」じゃねえよ。
     現場で俺の素晴らしい映画を見て勉強しろ。
     少しはマシなもん書けるようになるだろう。
香織   ……はい! 
     勉強させてもらいます。

大地と香織のやりとりを海斗は見ている。

大地   いいか! 教えはしねぇ見て覚えな。
     それと来月から新しい映画の撮影が入るから、
     雑用は全部お前の仕事だ忘れるんじゃねぇぞ。
香織   任せてください。

海斗   ああ! 
     いたいた! みんないたよ。
幹康   良かった。
     心配しましたよ。香織さん大丈夫ですか。
香織   海斗さん。幹康さん心配かけました。
     ごめんなさい。
岬    もう。お腹ハングリーよ! 香織。
香織   岬さん。
海斗   ほらほら。みんなの家に帰ろうよ香織ちゃん。
香織   みなさん! ご心配かけてすいませんでした。

―*― 【現代 ゆかりと香織 リビング】

ゆかり  へぇ……そんなことがあったんだ。
香織   その夜からです。
     ようやくみんなの輪に入れたみたいな感じで。
     後で聞いたんですけど。
     大地さんも毎朝新聞の映画コンクールに落選して
     ショック受けてたみたいで。
     それなのに……私の事心配してくれて。
ゆかり  ふーん。
     それで? どれくらい手伝ってたの? 大地の映画。
香織   どれくらいって……私の高校時代は全部ですよ!
     高校2年生になって大地さんやみんなが高校卒業して、
     やっと下宿からいなくなると思ったのに。
     「飯作ってくれる奴がいなくなると困るからって」
     誰も出て行かなかったんですよ。
ゆかり  それだけ頼られていたのね。
香織   どうでしょう。
     まぁ大地さんは私の小説の添削をしてくれたんで結果的に
     助かったんですけど。
     でもみんな大学入ってから本格的に映画製作に没頭して……。

―*―【4年前 リビングで映画作りの話をしている。】

岬    香織、香織。
香織   はい岬さん。
岬    この画どう思う?
香織   悪くないですけど……いっその事こっからの引きの画にしたら
     どうですかね?
岬    なるほど! グッドアイデアね。
香織   あ! この次のシーンで思いついたんですけど。
岬    なになに!

岬と香織の話は盛り上がっている。

幹康   香織さんも立派な私達の撮影クルーになりましたね。
海斗   最近じゃ監督と一緒に作品構成の話までしてるんだよ。
幹康   なるほど監督も香織さんを認めたわけですね。
大地   おい! 管理人。
     ここのセリフ駄目だろ。
     それと管理人。コーヒー持ってこい。
香織   あの大地さん。
     いいかげん名前呼んでくれますか? 管理人、管理人って
     もう3年ですよ。そろそろ!
大地   わかってぇねぇな。
     3年も呼び続けてんだ変えられねぇだろ普通。
香織   何が普通なんですか?
幹康   監督。香織さんの言う通りですよ。
     こうやってみんなで日本にいる時間もあと僅か何ですから、
     名前ぐらいはしっかりと……。
大地   幹康! その話は。
香織   日本にいる時間? どういうこと。
岬    あれ? 監督から聞いてないの?
     俺達来月からハリウッドの映画スクールに行くことになったん
     だよ。
香織   来月。
海斗   監督! 香織ちゃんに言ってないの?
     俺達は監督から自分で言うって言うから……。
香織   海斗さんどういうことですか?
海斗   ああ……その……この前作った映画がねハリウッドの
     映画スクールの人の目に留まってさ。
     俺達を評価してくれてハリウッドで本格的に勉強して
     みないかって。
香織   みんな行くの?
海斗   映画スクールは監督と岬。
     俺とミッキーはあっちの製作チームで現場から吸収しようかと。
香織   それじゃあ……来月には……みんないなくなっちゃの。
大地   海斗、幹、岬。こいつと二人っきりにさせてくれるか。

海斗   ……わかったよ。
岬    オッケーね。
幹康   語彙を正しく使ってしっかりと話すんですよ。
     わかりましたね監督。

3人は別の部屋へ行く。
リビングには大地と香織だけになる、

大地   ……。
香織   ……。
大地   すまなかった。
香織   どうして謝るんですか?
     本場の人に認められたんですよね。
     おめでとうございます。
大地   あっちに行ったら当分帰ってこれなくなると思う。
香織   そうですか。
大地   短くても3年。
香織   そうですか。
大地   ……。
香織   ……。
大地   一緒に来ないか?
香織   ……それは……世話役の管理人として私に言ってるんですか?
     それとも春川香織に言ってるんですか?
大地   ……どういう意味だ。
香織   ……(呟く)分からないんですか。
大地   とにかくだ!
     テメーもアメリカにこい!
     俺の作品にはテメーが必要なんだ。
     今年で高校卒業だろ? ちょうどいいだろ。
     あっちの大学通いながらさ。
     テメーの小説は俺といればもっと良くなる。
     テメーだってそうも思うだろ。
香織   香織。
大地   なんだよ。
香織   私の名前です。
大地   知ってるよ。
香織   知ってるなら何でちゃんと呼んでくれないんですか?
     私は管理人でも、テメーでも、お前でもありません。
     私は春川香織です。
大地   だからなんだよ、さっきから!!
香織   ちゃんと私を見てくれてますか? 
     この3年私はずっと大地さんの傍にいたんですよ。
大地   しっかり見てるだろ。俺はテメーの小説の為に……。
香織   小説じゃありません、
     しっかり私を見てくれてましたか? 私は大地さんのこと……。
大地   ……。
香織   ……。
大地   ……俺は……。
香織   アメリカには行きません。
     私は……私の夢のために日本で頑張りますから……だから……。
   
香織はリビングを出ていく。

岬    (カメラを回しながら)ああ! 泣かした。 
     見事に振られましたね監督。
大地   ああ! お前ら!
幹康   申し訳ありません。
     巨匠の失恋というノンフィクションをいつか撮ってみたくて。
岬    グッドね!
海斗   監督! 本当にこれでいいの。
大地   海斗。あいつには俺よりお前のほうが……。
海斗   大地! それ以上は無しだよ。
大地   ……。
幹    しっかり話してくださいとお願いしたのに。
     私達の監督は相変わらず語彙が足らなくて困りますね。
岬    ノープロブレム。それも含めて本場で揉まれましょう!
幹康   いいですか次に日本に帰る時は毎朝新聞映画コンクールの
     グランプリを取る時だけです。
大地   当然。
海斗   今度逃したら。次こそは僕がもらうからね大地。
大地   分かってるよ。

―*― 【現代 ゆかりと香織】

業者   すいません! 
     明日から取り壊しに入る業者の者ですが中を見てもいいですか?
ゆかり  どうぞどうぞ。よろしくお願いします。

香織が別の部屋から現れる。

香織   本当にここ無くなっちゃうんですね。
ゆかり  時代の流れかしらね? 下宿を借りる人も少なくなって。
     どうしたのそれ?
香織   これ隠していたの忘れてました。
     大地さん達との最後の夜の写真。
     見ると寂しくなるからずっと隠しておいたんです、
ゆかり  ふふふふ。ちょっと見せて。
業者   すいません! ちょっとこっちに来てもらえますか?
ゆかり  はーい。

ゆかりは業者に呼ばれて別の部屋に行く。
香織は写真を眺めている。

―*―【4年前 最後の夜】

岬    香織。お酒買ってきたよ。
幹康   あんまり飲みすぎないようにしてくださいよ。
岬    何を言ってるのミッキー!
     ハッピーに飲もうよ。最後の夜なんだから。
海斗   ほらほらケーキも買ってきたよ。
岬    どうしてケーキなんですか?
海斗   監督が言ったんだよ。
     お別れ会なんてしみったれたのじゃなくて若い才能の誕生日会に
     しようって。
岬&香織&幹康  意味わかんない。
大地   うるせぇよ!
     おい香織!
     何ぼうってしてんだよ。早く食いもんもってこいよ。
香織   はぁい……!?……大地さん!
     今私の事なんて呼びました? ねぇもう一度呼んでくださいよ。
大地   うるせぇな。
香織   言いましたよね。香織って言いましたよね。聞きました? 
     聞きました?
岬    言ってたね。
海斗   ちゃんと聞きましたよ。
幹康   監督も少しは大人になってくれたということですかね。
大地   うるせぇよ!
     岬! 酒もってこいよ。
岬    (シャンパンを抜く)はいはい。
海斗   ほら! みんなグラスもって。
大地   俺らは、ハリウッドに行って最高の映画を作って日本に帰ってくる。
     香織。俺達がこっちに戻ってくるまでに賞の一つでも取って
     おけよ。
     香織の小説を俺達が映画にしてやるよ。
香織   はい!


【カラフル おしまい】

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