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鎌倉建長寺でパキスタンの仏像と再会する

先日の話。私は鎌倉にある建長寺を訪れた。パキスタンのラホール美術館に所蔵される釈迦苦行像(Fasting Buddha)の複製が、祀られているとの噂を聞いたのである。釈迦苦行像は、ガンダーラ仏の最高傑作とも評される。その複製は、唯一パキスタン政府によりオフィシャルに国外に寄贈され、日本にやってきた。ガンダーラ仏ファンの私にとって、あの釈迦苦行像が日本で見られるとは思いもよらず、これは心が高鳴った。

関東最大の法堂である木造建築に足を踏み入れ、天井を見上げると、力強く美しい雲龍図が広がっていた。その龍の下、釈迦苦行像は、千手観音像を背に、最も目立つ位置に据えられていた。実際に目の前にすると、その神々しい姿に脱帽する。(堂内の様子は、画像の挿入は控えるので、実際に足を運んで見てほしい。)

『釈迦苦行像』ラホール美術館

私が最後にパキスタンのラホール美術館を訪れたのは、2019年の夏。釈迦苦行像は、ガンダーラ美術コーナーのずらりと並ぶ仏像の中に飾られていた。断食により極限にまで痩せ細った身体に血管は浮き出て、肋骨の下は大きく陥没し、苦行により顔は険しさを見せる。その状態でもなお諦めずに坐禅を組む姿は、仏陀の修行の厳しさとその確固たる意志を見せることで、見る者を圧倒させる。ガラス越しにその崇高な様は私の目を釘付けにしたのを覚えている。

しかし、建長寺で見た釈迦苦行像は、ラホール美術館の展示とは目的も意味も異なった。ラホール美術館では、釈迦苦行像はあくまでも展示品であり、入館者は流れるように仏像を見、前を通るだけである。一方、建長寺の参拝者は、賽銭を投げ、釈迦苦行像にまっすぐ向かい手を合わせていた。

信仰の対象として堂内に祀られている姿を見ると、ラホール美術館のショーケースに飾られた本家の釈迦苦行像よりも、複製の方が仏像としての役目を全うしていると思わずにはいられなかった。

建長寺の御朱印


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