アニメーターは身体を動かしていこう!
アニメーターの皆さん、体動かしていますか?
私は長年、趣味としてダンスを続けてきましたが、それがアニメーションの理解に役立って嬉しかった話をさせてください。
アニメーションのクオリティアップのために気にするべきポイントはいくつかあると思いますが、ふと、ダンスの練習を通じて先生達から教わってきたことを思い返してみると、この二つの世界に共通する概念があることに気付きました。
その1 重いパーツ同士の関係性
人体で重いパーツNo.1は腰、No.2は頭です。
ダンスで複雑な振り付けに挑戦してうまくいかないとき、とにかく何度も先生から、「体の二大重いパーツ、腰と頭をコントロールしろ。そうすれば体全体の動きを制御できる。」と言われました。
実際に上手な人のダンスを観察すると、頭と腰の軌道がとても安定していて、各瞬間で互いがカウンターポジションを取っています。
対して初心者の場合は、腰の動きに頭が振り回されている感じになります。これはなぜかというと、頭は重いパーツですが、厄介なことに体の先端に位置するから、腰と頭をつなぐ体幹の筋肉がしっかりしていないと、腰の動きに振り回されてしまうのですね。
まず動きを先導するパーツがあり、その他のパーツは後からついてくる、ということがダンスの動きにも言えることがわかりました。
また、体幹の強度と頭の軌道の安定に相関性があるとすると、これはキャラクター性を動きで表現する際に大いに役立ちそうです。強いキャラの動きは頭の軌道がブレないのに対して、弱いキャラの動きは筋力がないので頭が大きく揺れます。
試しに平均的な走りを作成し、それをベースにSpine(背骨)、Neck(首)、Head(頭)、Arms(腕)の回転値を大きくして、弱そうな走りを作成してみました。「筋力が弱いと頭や末端パーツの軌道が暴れる」という仮説に基づいて調整する箇所をあらかじめ限定したので、Weak Runは1時間ちょっとで作成できました。このように、筋力と頭・腰の動きの関係性を把握しておくと、状態や性格の異なるバージョン違いのモーションを作成する際に大いに役立ちそうです。
その2 重いパーツとパワー
ダンスの割とどのジャンルにも登場するお決まりステップで「パドブレ」というのがあります。軸足を置き換えて方向転換する動きです。
これ、本当にバレエにもジャズにもヒップホップにもハウスにも共通して登場するのですが、これほど広くジャンルを跨いで存在する動きは珍しいです。なぜ広く活用されるのか…? 私の推論ですが、重い腰を方向転換させるのは大変なため、それを細かい足のステップで補助すると動きやすいからではないでしょうか。
物体には運動の法則が働きます。
$${{加速度} = {力} / {質量}}$$
という式に見られるように、力が一定の場合、加速度は物体の質量に反比例します。つまり重くなるほど加速度が小さくなるので、動きに必要な時間が長くなります。
そして、先ほど述べたように、腰は体の一番重いパーツです。
つまり、腰を動かすには長い時間が必要です。
ここで、もう一度パドブレの動きを見て欲しいのですが、一方へ進んでから反対方向へ転換する際に、腰が一番最後まで残っています。つまり、腰はとても重いので、方向転換させるためには時間がかかるのです。
これをアニメーションの世界に照らし合わせると、重いキャラクターは素早く方向転換できないということ、そして重量感を表現したければ方向転換に尺を取ると良いということが言えそうです。(すごく限定的ですが。)
例えばビルくらいの大きさの巨大な怪獣を思い浮かべて欲しいのですが、彼がもし、キュキュッと小回りを効かせて素早くターンしていたら違和感がありますよね。
試しに同じキャラクターを使用して、軽い場合と重い場合の方向転換を表現してみました。軽い方はワンステップで急な方向転換をしているのに対して、重い方は曲がりきるのにかかる時間を長くし、身体全体を回転方向へ傾けました。また、重い方はより大きな力を要するので、頭や手の振りなど末端の動きを大きくしています。
いかがでしょうか、上のLight Bodyに比べると下のHeavy Bodyの方が重そうに見えませんか?
以上のように、趣味であるダンスと本業のアニメーションに共通点を見出すことで、大きな喜びと共に双方の理解を深めることができました。
実際に自分の体を動かして体験することで、物理法則やアニメーション法則が頭の深いところにストンと落ちてくる感覚を得られます。
ということで、アニメーターを職業とする皆さん、ぜひ、積極的に体を動かしていきませんか? そして、その中でも特にダンスは、リズム感が身につく全身バランス運動なので超オススメです。