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昼下がりの教室で。

午後の教室。
日当たりのいい窓際の席で、少し眩しそうに顔をしかめた彼女は、一心不乱にノートをとっている。黒板を見ようと上げた顔が下を向くたび、耳にかけた髪がさらさらと落ちる。顔にかかる髪を面倒くさそうに、でもその都度律儀に耳にかける。そんなに邪魔なら結べばいいのに。なんて思っていることは内緒だ。(だって結んでしまったら、耳に髪をかけるあの仕草としかめっ面が見られなくなってしまう。)

はっきり言って、彼女は特別可愛いってわけじゃない。むしろクラスの中では地味で目立たない女の子。だけど、なんだか他の子と違う特別な空気をまとっている。それが気になって仕方なくて、ついつい授業中に盗み見たりしてるって訳。

僕が彼女を特別だって思ったきっかけは、鉛筆。
21世紀、令和の時代に鉛筆を使ってる女の子。
それだけで、ちょっと特別な感じがするよね。

大抵の女の子のペンケースには、カラフルなペンだとかキャラクターもののシャープペンシルが、ぎゅうぎゅうに入ってる。おまけにペンケースにも、じゃらじゃらマスコットがついてたりする。
まるで色の洪水みたいで、おしゃべりな女の子たちそのものみたいで、僕はいつもその賑やかさに圧倒されてしまうんだけど。

彼女の四角い赤い筆箱(そう、ペンケースじゃなくて筆箱と呼ぶにふさわしい佇まいなんだ!)はひっそりと静かで、でも確かに机の上で輝いているように見えたんだ。

気になってそっと覗いたら、ナイフできれいに削られた鉛筆が5本。
赤と青の色鉛筆(1本で赤と青が半分ずつになっているやつ)が1本。
そして真っ白な長方形の消しゴムがひとつ。行儀よく並んでいた。
無駄がなくて、シンプルで、きれいな筆箱。
彼女にそっくりで、大事に使っている感じがして、いいなって思った。

意地悪な女の子たちは「おばあちゃんみたい。」なんて陰でひそひそ笑ってるけど。そんな意地悪なんて、我関せず。彼女は今日もサラサラの長い髪と格闘しながら、綺麗に削った鉛筆でさらさらとノートをとっている。
そして僕は迫りくる午後の眠気と闘いながら、その姿を綺麗だな、って眺めてる。

こちらにお世話になりました。

*今日のお題「鉛筆、髪、耳」

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