見出し画像

あの日私は塞がらない穴を開けた。

俺、君とずっと一緒に居られないかもしれない。

そんなことを言われたのは、もう1ヶ月前の事だった。

電話口で別れの言葉を言い合った。
彼の最後の言葉はよく覚えている。

お前を1番幸せに出来るのは
俺しかいないけど、
お前を2番目に幸せに出来る男と
幸せになってくれたら俺は嬉しい

何を言ってるんだ?別れを口にしたのはお前の方だろう。そんなことを思ったのはそっと心に隠して、最後は元気に「バイバイ、さようなら」といった。彼は「またね、おやすみ」って言っていた。「また」なんてものはもう来ないのに。

あの日私は、電話を切ったあとピアスを開けた。新しい門出として。
ピアスを開ける行為には自分を変えるという意味があるとなにかの雑誌で見た気がするから。

その数日後、彼の職場に元カノが転職してきていたことを知った。地元の先輩から私じゃない女と彼が居酒屋に居たと教えて貰ったのがちょうど別れる1週間くらい前だった。

「あー、あの人元カノのこと大好きだったもんね。私との4年間なんてあってないような物だよね。なんだ、私も、もう元カノか。」

余計な推測と余計な妄想を膨らませて勝手に傷ついて1人涙を流す。

それから私は、沢山の人と会って、色々なことを学んだ。色々な考えがあること、沢山の大人な遊び、知りたくなかったことが沢山あった。こんな思いしたくなかったと思ったことも沢山あった。

そして私は何かを失っていった。
汚れきった心はもう何も受付けなかった。

カラフルの中に出てくるひろかの言葉を借りるなら

三日にいちどはエッチしたいけど、
一週間にいちどは尼寺に入りたくなるの。
十日にいちどは新しい服を買って、
ニ十日にいちどはアクセサリーもほしい。
牛肉は毎日食べたいし、
ほんとは長生きしたいけど、
一日おきに死にたくなるの。
ひろか、ほんとにへんじゃない?

ひろかの言葉が鋭く刺さる。
何かを失ったとしても何かを感じてしまう、
そんな何かが共感出来た。

私は前に進めるのだろうか。
前に進まなければいけないのだろうか。
どこに向かえばいいのだろうか。
こんな空っぽの心に何が埋まると言うのだ。

欠けていってしまったなにかを、
誰に埋めてもらえばいいのだろうか。

誰かに体を差し出して一夜の愛を貰っても、
心は何も埋まらなかった。
即席の愛ではこの大きくポッカリ空いた心の穴は埋まらない。
馬鹿みたいだと思いながら、同じ匂いになった名前も知らない人の髪を撫でる。
夜が明けて、気持ちのいい風に吹かれ、フワッと香るシャンプーの匂いに朝帰りを責められている気がした。

程なくして彼のことは何も思い出さなくなっていった。
楽しかった思い出も温もりも声も顔でさえも
あんなに大切だったのに。
あんなに愛していたはずなのに。

あぁ、もうどうでもいいや

もし今私が彼に手紙を書くとするならば
私はこう綴るだろう

拝啓 〇〇様
先日はお世話になりました。
あの日、私がいなくなるのが分かっていて、何を思い「またいつか」と発言できたのか、未だに分かりません。
あなたは私が好きでしたか?
私はあなたが好きでした。
だけどもう、
その気持ちもこれでおしまいです。
あなたがいなくとも、
私は元気に生きています。
そうです、あなたが言っていた「またね」なんてものはもう来ないのです。
春があなたを春疾風で連れ去って、夏があなたを波のように押し戻す。
そんなことはもうありません。
戻ってきてもあなたの居場所なんてもうないのだから。今までありがとうございました。
P.S. 私が知らない元カノの隣で勝手に幸せになってください。さようなら。

あの日、私は心に塞がらない穴を開けたけど、蓋をすることを覚えました。

そう、今の私はあなたより幸せになって、
あなたを苦しめたいただそれだけなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?