大好きだったあの人⑤



どこで待ち合わせしたか、とかは全く覚えてない。

でも、彼と防波堤から見た海は今でも覚えてる。
冬だったからめっちゃ寒かったコトも。


海を見ながら彼は
「しまったなぁ、釣りの道具持ってくれば良かったナ」と言った。

「釣り、お好きなの?」

「好きですよ。aneは?」

「うーん、アタシ釣り堀しか行ったコトないんデスよね〜。
ソレも、釣り堀なのに一匹も釣れなかったし。
エサだけ食べられちゃって」

「釣りは道具次第ってトコあるよ。
以外と釣り堀、難しいかもしれないよ?」

「釣れてなかったの、アタシだけだったヨ〜」

「じゃあ今度釣りに行こうヨ。
僕が教えてあげるから」

「え〜、でもアタシ、生きたオサカナ触れないヨ?」

「あはは、aneは可愛いなあ。
いいよ、釣れたら僕が針から取ってあげるから」

「ハイ、お願いします」

「うーん…
今ね、さりげなく次のお誘いをしたんだよ?」

「え?」

「aneは警戒心がなさすぎだなあ」

「あー、そういうコトか、今の次のデートのお誘いだったってコトですか。
ゴメンなさい、勘が鈍くて…」

「うっかり悪い人に連れて行かれそうだよ?」

「そんな…アタシだって、誰カレ構わず着いて行ったりしないデスよ」

「そうかなあ」

「Sさんだから一緒に釣りに行ってみたいって思うんデス!
もうっ」

彼はハハハと笑った。
笑うと本当に可愛い。
アタシだって「Sさんと一緒にいたい」ってさりげなく「好き」をアピールしたんだけどナ。

彼は気付いてるかな?
オトナだから気付いてるか。
そんなコトを考えながら海を見てたよな。


帰り道の車の中で、彼がどんな趣味を持ってるかってハナシになった。

彼は映画が好きだって言ってた。

東京の自宅を建て直したした時に、防音のAVルームを作ったって。

プロジェクターを使ってスクリーンで映画を観るんだそう。

6つのスピーカーで映画館で観てるみたいにしたって言ってた。

「すごーい‼︎お家にプロジェクター⁈
会社や学校にしか無いって思ってた‼︎」

「映画を観るなら大画面じゃないと」

「へえ〜。さすがAV機器メーカーさんデスね」

「そうだ!
ねえ、aneは『エアフォースワン』観た?」

「あー、ハリソン・フォードですよね?
観てないなあ」

「今ウチにDVDあるんだけど、良かったら観ない?」


ん?ウチ?
もしかしてもしかしなくてもコレは彼のお部屋へのお誘いか?

アタシはドキドキしながら、
「観たい!」って叫んでた。

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