大好きだったあの人vol.17
彼が東京へ帰ってひと月あまりの7月最終週の土日のお休みを利用して東京へ行った。
東京駅の待ち合わせと言えば、銀の鈴。
迎えに来てくれた彼の笑顔を見たらすごく嬉しかった!
飛びつきたい衝動に駆られたが、なんとか堪えた。
ここは日本、そして“東京さ“、そんな恥ずかしいコト、できない。
きっと飛びついたりなどしてたら彼もめっちゃ困ってただろう。
彼は
「どこもかしこも暑いから涼しい場所に行こう」
と言って軽井沢に連れて行ってくれた。
避暑地とは名ばかりで、軽井沢も暑かった…
アウトレットモールをぐるっと一周して
「ここも暑いね」
と彼は笑った。
東京の高速はどの道も混んでて、車もゆっくり走る。
これのドコが高速道路なの?
と思った。
でも、久々の彼の車、彼の低い声とタバコの匂い、それらすべてが愛おしかった。
「ane、後ろ見てご覧。富士山が見えるよ?」
「ホントだ。お天気良くて良かった!」
「新幹線からも見えたでしょう?」
「えーと…どうだったっけ…」
「あー。富士山は日本一の霊山なんですよ〜。
パワースポットなんだから」
「アタシの日本一のパワースポットはSちゃんだもん。富士山なんかショボいショボい」
「んふふ、僕をそんなに喜ばせてどうするんですか〜?」
今の時間は楽しいけど、明日の夕方にはアタシは1人でまたあの田舎の街に帰らないといけない。
ああ、明日なんて永遠に来なきゃいいのに。
オイオイ、まだ土曜日だぞ?
アタシは早すぎる「サザエさんシンドローム」に苦笑した。
「どうしたんですか?一人で思い出し笑いですか?」
彼は笑った。
「ううん、Sちゃんといるとすごく楽しくって。嬉しくなって思わずニヤニヤが止まらないんだよ〜」
「僕、愛されてますネ〜」
「ネ〜」
Sちゃん、アタシ、ずーっとSちゃんと一緒に居たいんだよ?
ずーっとSちゃんだけ見つめていたいんだよ?
こんなにこんなに大好きなコト、ちゃんと気づいてくれてるの?
でも結局、本当に言いたいコトバは胸の奥深くに飲み込む。
「今日のホテルはね、『品プリ』予約したんですよ」
「Sちゃんも泊まるの?」
「当たり前でしょう?」
「Sちゃんはお家帰るかと思った」
「aneとは短い時間しか一緒に居られないのに、家になんか帰らないよ」
「そっか」
「一緒じゃイヤですか?」
「イヤなワケないじゃん」
「良かった〜。実は『品プリ』、僕も泊まってみたかったんです。
こっちにいると逆に泊まらないからね。
他に泊まりたいホテル、ありましたか?」
「…アタシはSちゃんと一緒ならドコだっていいヨ」
アタシはそれから口数が少なくなってしまう。
本当はもしかしたら彼の自宅に呼んでもらえるんじゃないか?って期待してたから。
ああ、やっぱりアタシはお客様なんだなぁって実感がアタシを傷つけた。
彼はアタシを家族の一員として迎える気はないんだなって現実を突き付けられたみたいで胸が苦しかった。
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