放射線治療中

放射線治療は全部で6週間やった。最後の1週間になると、朝起きたら枕が髪の毛で埋まるくらい髪が抜け始めていた。触れば触るだけどんどん落ちて、動くだけで自分の周りが髪の毛だらけになった。抜けることが嫌だとか抜けるのがショックっていう気持ちはあまりなかったけど、おおお…っていうかなんというか、ほんとにこんなに抜けるんだ、って感じだった。ベッドの周りがすぐ髪の毛だらけになって汚かった。いよいよ抜けてくると落ち武者みたいになった。お風呂には髪の毛捨てるためのざるが置いてあって、入るたびにとんでもない量の髪を入れていた。帽子なしでは歩けないようになって、寝るとき以外は基本的にずっと帽子をかぶるようになった。がんセンターは私がいたときちょうど改築中で、放射線治療をする建物はとてもきれいで明るかった。自分のいた病棟はとても古くて暗かった、逆がよかったなぁと思った。病室から処置室への移動は、ベッドにあるモニターで呼ばれたら自分で行くシステム。外来の患者さんもいっぱいいて、その中を通っていかないといけない。私はがんセンターではTシャツスウェットに着替えていて病衣ではなかったけど、帽子もかぶっていたしタグもつけていたし明らかに入院患者だった。でもその辺に病衣着て点滴引いている人もたくさんいるから全く気にならなかった。今思うと病院という場所は、つくづく不思議な空間だと思う。病院から出れば、おそらく何かしらの視線を向けられるであろう人が大勢いるけど、それが多数になると途端に違和感が薄れる。私は多分そこに混じるのが嫌だったのだと思う。誰しもいやだとは思うけど、ここに慣れてしまったら、ここの一部になったらもう戻れないようなそんな気持ちがどこかにあって、だから自分は違うって言い聞かせていたような気がする。ここは異質だと常に意識していた。自分は今ここに一時的にいるけど、出れば二度とこないだろうって。体験学習みたいな感じ。
検査室の前に待合室があって、そこで自分のタグを読み込む。そしたら順番待ち。ここにも一般で通いながら放射線治療している人がいるから、入院患者と外来患者がいた。でもここまでくると人はまばらで椅子もほとんど埋まってなかった。放射線室は何個かあったけど、私は一番奥の部屋の機械しか使わなかった。何畳くらいあるのかな。30畳くらい?通路を進んで白い広い部屋の真ん中に台と機械があって、周りの壁ぎわにいろいろおいてあって、手前に1畳分くらいのカーテンで区切られた着替えるところがあって。小さい音で何か音楽流れていた気がする。忘れちゃった。冷たい感じではないけど、やっぱり無機質な感じはあった。
残り3回くらいの時点で生理になって、パンツ脱ぐのが困難になった。入院中は生理に悩まされることが多かった。やっぱり男の技師さんにその場でいう勇気はなかったから、なった時点ですぐ看護師さんに相談して、伝えておいてもらった。そしたら生理になってからはパンツはいたままで放射線を当てた。それでもいいのかよって思ったけどまぁしょうがない。最後の放射線が始まる前に、技師さんに体のライン消えてきているので書き直しますねって言われて、「え、今日で終わりだけど?!」と思った。そしたらもう一人の技師さんが今日で終わりだわって気づいてくれてラインは書かずに済んだ。油性ペン?何で書いているか知らないけど、強くこすらないでくださいっていわれて、3週間その通りにしていた。2週間たつとそれなりに薄れてはきていたけど目で見てわかるくらいにははっきり残っていた。この時点で書かれたらまた2週間以上ラインがある体を見ることになる。実験体というか、解剖される人みたいでとてもじゃないけどほかの人に見せられる姿じゃなかった。温泉とかもいけないしさすがに嫌だなって思っていたからよかった。最後の放射線が終わった時に、固定マスクを持って帰るか聞かれたけど断った。そんなもの、いらない。どうすんだ。もう私には必要ない。今後の人生においても、もう必要ない。

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