見出し画像

花穂

静謐の中にあるひかり
雨が止む前の幕間
花弁が休む薄曇り
どんなひかりよりも眩しくて
片目だけを薄く開けて歩くよりなかった

傘で受け止めて
ひかりの中で受け容れたもの
変化には多くの憂いと果実が
繰り返しを繰り返して
降り注ぐ

忘れて、思い出して、また出会って
私は私でしかなくなる
それを嘆いて
それを受け止めるしかなくなって
なりたい私になったのではなく
私は私でしかないことを思い知る

他の誰かだったら
この眩しさは眩しくないのだろうか
他の誰かだったら
なりたかった私になれただろうか
他の誰かだったら
まだあなたは私は好きでいただろうか
他の誰かだったら
私は私のことを好きでいただろうか

去年とは違う同じ季節がやってきて
去年と同じ場所で違う花穂が
今年も咲くのだろう
私のなかの変わらないところを探して
変わりゆくあなたを想像する

桜色した油紙が小さな額について
震えを報せずに滲み出ている
それはひとつの生で
それはひとつの終わりのよう

空気に触れるにつれて
生きるが溶け出して
死を蓄えてゆく
眩しさに目を閉じるみたいに
死から逃れようとする

週末何をしようかと考えながら
終末のことを考える
繰り返しを繰り返して
言い聞かせて、言い直して
向き直して、巻き直して
透過してゆくものの
距離を推し量っている


よろしければサポートをお願いします。自費出版(紙の本)の費用に充てたいと思います