見出し画像

地方創生のリアルな現実①夕張市の事例~水道代が高騰~

水道料金が高い夕張市(北海道)は、月額で6841円
水道料金が安い赤穂市(兵庫県)は、月額で853円

なんと水道料金が8倍以上も高いのです。

夕張市といえば、2006年に財政破綻し、全国的にもニュースになりました。

ところで、みなさんは地域によって水道料金に違いがあることを知っていますか?

【市町村別水道料金高いランキングトップ5】
1位夕張市(北海道)6,841円
2位由仁町(北海道)6,379円
3位羅臼町(北海道)6,360円
4位江差町(北海道)6,264円
5位上天草市大矢野地区(長崎県)6,264円
【市町村別水道料金安いランキングトップ5】
1位赤穂市(兵庫県)853円
2位長泉町(静岡県)1,120円
3位小山町(静岡県)1,130円
4位白浜町(和歌山県)1,155円
5位忍野村(山梨県)1,188円

2021年調査/日本水道協会/一般家庭における平均水道使用量20㎥換算

たとえば、水道料金についてこんな疑問はないだろうか?

・水道料金が高いのは自治体のせい?
・どうして水道料金が地域によって異なるの?
・夕張市が財政破綻した理由と水道料金は関係があるの?

こういった疑問に対して本気で取り組む調査や、問題を解決するための研究はこれまでほとんどありませんでした。

今後、私たちは、この「水道料金の高騰」が引き起こる原因を探るとともに、2040年までに消滅可能都市として危惧される自治体(全体の49.8%)に水道料金と関係があると考えました。

そこで今回は水道料金と自治体の実態について紹介します。


夕張市の財政破綻そして再生?

改めまして、地域創生、地主学研究家の横山篤司(ANDY学長)です。地域創生をわかりやすく、誰にでも実践できるように研究をしています。

現在、北海道大学で地方創生研究に携わっている様子

夕張市のケースでは、
夕張市が2006年に財政破綻した時の負債総額は632億円、市税収入は9億7000万円(2004年)でしたので、約65倍の負債(支出が0円でも返済に65年かかる状態)でした。

会社でいえば、債務超過かつ毎年赤字で倒産です。

そこで2007年6月15日に財政健全化法が制定、6月22日に公布、2009年4月1日から計画策定義務などに係わる規定が全面的に施行されました。

そこで注目されたのが、鈴木直道・元夕張市長(2011~2019)です。2008年に東京都から夕張市に派遣され、内閣府地域主権戦略室を経て、全国最年少の30歳で夕張市長となりました。

2019年に鈴木氏が全国最年少の38歳で北海道知事(2019~)になったことで、夕張市は再生した?、健全化した!と思う人もいますが、結論からいえば、問題が風化しはじめています。

私たちは、この夕張市のような財政破綻に、今後、日本の自治体の半数が、同じ構造的な問題によって財政破綻すると警笛を鳴らします。

その警笛のシグナルが『水道料金』です。


問題①人口の減少

人口減少は地方都市では深刻です。

たとえば夕張市の人口は、
昭和35年(1960年) 人口11万6千人
平成17年(2016年) 人口1万3千人
※全国都市中人口激減率は第1位

人口が約9分の1になりました。

国の地方交付税交付金(国から支給されるお金)は、人口や面積等の係数によって交付金の額が変動するので、

人口が減ったら、国からもらうお金も減る、というのが国の再分配システムの仕組みです。

だから、どの市町村もあらゆる手段を使って人口増やし、国からお金をもらいたいという構図が生まれました。


問題②税収入の減少

人口減少は収入(税収)にも影響があります。

人口が減れば税収が減ります。

たとえば夕張市では昭和59年のピークから、税収入が12億1700万円(56.2%↓)、地方交付税が38億8千万円(55.5%↓)が減ってしまいました。

税収には住民税のほかに、事業法人税や、固定資産税など、様々な税収入があり、地域経済の衰退により毎年の税収が徐々に減っていくことが予測できないのも課題です。

SimCityでいえば、ゲームオーバーに向かってます。


問題③投資返済の長期化

インフラの投資返済にも問題があります。

基本的に自治体はインフラ(道路、上下水道、公共施設等)に投資したら、利用する住民から利用料を少しずつ頂いて投資返済をします。

たとえば、
10億円を投資して水道管を補修したら、毎年5000万円×20年間かけて投資返済をしていきます。

この投資と返済の仕組みは住宅ローンといっしょです。

そこで20年間をかけて水道料金を少しずつ住民から徴収し、その借金を投資返済に充てていくわけですから、もし人口が減少すると、本来得られるはずの水道料金が徴収できず、水道管への投資返済が長引いてしまいます。

たとえば、夕張市のように過去に人口10万人を支えた都市のインフラ(道路、水道)や行政サービス(ごみ収集等)を、50年前とおなじような感覚ですべて整備していては、いずれ持続不能に陥ってしまうと思いませんか?


問題④過剰な観光投資計画

過剰な投資計画も問題になっています。

たとえば、自治体が考えるマスタープランでは
・昔の産業を取り戻そう(産業)
・新たに観光客を呼び込もう(観光)
・若い起業家を呼び込もう(人口移転)
といったPR・広報計画を立てます。

その結果、全国で無謀な観光投資計画や、持続不可能な産業投資によって税金がばら撒かれているとニュースになっています。

しかし、実はこんな背景もあります。

たとえば、自治体は地域住民の声を聞き、その声に応えたいと考えます。地域住民の合意を得るためには、いきなり突拍子もない政策を掲げるわけにはいきませんので、住民に理解が得られるシンプルでわかりやすい政策を先にやろうとします。

その結果として、巨大な公民館ができたり、過去の歴史や地域文化を紹介する観光イベントが行われます。

地域住民の声を聞きすぎるのも問題です。


問題⑤行政経営の効率化ができない

自治体の仕事は、なかなか効率化できないよね。

そんな声をよく聞きます。

その背景の1つに、自治体には資産(財産)という概念がありません。

あるのは、歳入と歳出の2つだけです(普通会計を中心とした収支の指標)。お金が入ってお金が出ていく。それだけです。ですので、資産を所有したり、積み上がっていく概念がないので、良くも悪くも平均的、機械的な作業に陥りがちです。

たとえば、夕張市では昭和35年、人口ピーク時の最盛期に採用した職員数が615名おり、人口に合わせて削減努力はしたものの、財政破綻時は職員過剰な状態でした。

職員(人財)の評価も、解雇の理由も、行政経営という概念がなければ説明できません。

このように、IT化や効率化という民間では当たり前の経営の概念がないのも今後大きな問題になる可能性があります。


問題⑥将来のツケを返さない

うちの自治体はだいじょうぶ。

たとえば、過去に、再建となった福岡県福知町(3町/旧方城町、旧金田町、旧赤池町)では、水道料金は12%、町営住宅の家賃や町営球場、プールなどの使用料は1割~2割、汚水処理費は6割値上げされ、道路補修も外注ができず役場職員が自ら行うなど再建の道のりはとても厳しかったといいます。

失敗のツケは、国や行政の地方交付税交付金や、将来の子供たちが払ってくれるからだいじょうぶだ。

そんな住民が1人でもいると、地域創生の歩みがすぐ止まってしまう。今の地方自治体の現状です。

さいごに:いま、地域の自治が危ない

私が北海道の現地で見てきた地域創生のなかで、

・空き家は活用すべきでしょうか?
・橋は直すべきでしょうか?
・道路は舗装し続けるべきでしょうか?

という疑問がたくさん浮かんできます。

もし自分のお金だったら、それは投資対効果ないよね、もったいないからやめておこうと思うでしょうが、税金だったら、なんで自治体はやってくれないんだと、恐らくクレームを言うでしょう。

もし自分が住む地域で、インフラ投資を返済するために、実際に水道料金が何倍にもなったとしたらどうでしょうか?

嫌だ嫌だという声が今にも聞こえてきそうです。

さらに近年は町内会や学区連絡協議会などの地域の自治活動も、住民の高齢化やなり手不足から、町内会を解散する市町村が増えています。

そうなれば、地域の消防や見守り活動も、地域の安全安心も、犯罪でさえ抑止できなくなるでしょう。つまり、旧来型の地域コミュニティでは持続不可能になってきています。

ですから、行政経営をしっかり考えていくことが必要です。

私たち北海道大学地域創生研究会では、この行政経営と地域の自治についても調査をしていく予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?