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俺の本棚から一冊 #2

 社会人になって驚いたことの一つは、本を読む人は少数派であるということだ。「新書って何?」と40歳半ばの上司に言われたときはカルチャーショックで頭がクラっとしたのを覚えている。

『字が汚い!』新保信長 2020/文春文庫

 「手書き信仰」という言葉がある。履歴書を手書きで作成することにこだわる人々を揶揄する言葉である。彼ら曰く、筆跡や字の丁寧さが性格や能力の判断材料になるだけでなく、なによりも誠意が伝わったり温もりを感じることができるらしい。彼らの言い分にどれだけの根拠や正当性があるのかは本稿では論じないけれども、筆跡から人柄を想像したくなる気持ちはわかる。
 控えめな字、派手な字、力強い字、色んな字の癖から「へぇ、この人はこんな字を書くんだ」と思ってしまう。普段からよく知る人の字なら「この人だったら、こんな字だよな」と納得したり、「意外とこんな字を書くのか」とちょっと驚いたりする。何はともあれ手書きの文字は個性的なのだ。

 私は字が汚かった。自分で書いた字が読めないときが多々あり、中学生の頃に答案用紙か何かに書いた自分の文字が読めずに困っていると、担任の先生が解読してくれたことがあり、自分の字の下手さを反省したことがある。教師は生徒の文字の癖が理解できないと仕事にならないのだろう。ありがとうH先生。今もお元気ですか。

 本書は字が汚いと自負する著者が、字がうまくなるためにはどうすればよいのか悪戦苦闘するルポである。
 著者が行った作家や編集者へのインタビューから、みんな多かれ少なかれ自身の字に対してコンプレックスを抱いていることがわかる。
 きちんとした字を書く人って大人っぽいよなあと思う。あの人の字は素敵だなあ参考にしたいなあと羨む一方、俺の字はあの人に比べればまだましだよなと慢心する。でも見られるのは何だか恥ずかしい。手書きの字について考えれば考えるほど、私は見栄っ張りなんだなと自己分析した。
 
 本書ではインタビューした人達に「六甲おろし」の歌詞を書いてもらっている。当たり前だけど色んな字があるなあと感心した。そして、思わず自分も手元の紙に歌詞を書いてしまった。見栄っ張りな私の字はどうですか。


中途半端ってコメントしにくいよね


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