酒屋が酒だけ知っていれば良い時代は終わった。
思い返してみれば愛知県から上京し就職して早13年の歳月が過ぎた。
最初がグランスタ東京からスタートし、麻布十番店マネージャー、そして売上目標をクリアして麻布十番店の建て替え、芝配送センターの立ち上げから本社営業に配属、飛び込み営業を経験し、日本酒テイスター、ワイン、ウイスキーバイヤーへ。
この13年間の要所要所で人生を変えるような出会いがあったのだが、これはその初期の頃の話し。
麻布十番店のマネージャーになった当初は、酒屋だから当然酒をめちゃくちゃ勉強していた。来店するお客様にいかに酒の情報を伝えるかに熱を込めていた。
会社のテイスティングでも酒単体で美味しいものを求めていた。
そんなある日の2013年10月に老夫婦がやってきた。
最初は新入社員のスタッフが対応していたのだが、何か違和感を覚えて対応を交代した。
この違和感を感じる、というのはとても大事なことだ。
麻布十番で働いていると昔は色々な人が多かったから。
例えば入ってくるなり、
「おう、酒くれよ」
安「酒の販売だけでBar営業はしていないのですが、、」
「おう、じゃあこの酒買ってここで飲むのは良いんだな?もらうぜ」
「あ、兄貴!だめです!兄貴!すいません、失礼しました!」
完全に兄貴でしたね、あれは。
他にも義侠を「おう、名前が良いじゃねぇか!」とこよなく愛する御方がいたり、、色々あったなぁ。
閑話休題
その老夫婦は
「お酒が飲めないので料理に合うお酒を選びたいのですが」
なるほど、、やけに詳しく質問するしどこかに手土産で持っていくのかな?と思いながら、その当時は自信満々で3本を選んだ。
お会計後
「実は六本木で料理屋を営んでいるので、料理とお酒の相性を見てほしい」
なるほど!違和感はそういうことか。
二つ返事で私もどのように合うのか興味津々でその週の休みにさっそくお邪魔した。
その時提案したお酒は、料理に合う、と造り手からの受け売りを自分で合わせることなく提案したお酒。
実際に合わせてみて、料理の余韻を洗い流す、邪魔をしない、というのは間違ってないが、これは…合わなくない?
せっかくの料理の余韻を洗い流す必要があるのか?と実際合わせてみた感想は、合うとは言えない、だった。
その時から料理と酒の追求が始まった。麻布十番店配属になって2年目である。
それまで追求していたお酒は「単体で美味しいもの」
この軸は未だにテイスティングする時の評価軸としてブレてはいないが、この時そこにもう一つ軸が加わった。
何の料理に合う?
仕事は自分の「モノサシ(判断軸)」を見つける所から始まる。
モノサシを変えるには会社の型にハマるか、人に出会うか、本を読むか、しかない。
その老夫婦に出会ったことで変わったモノサシは、料理屋が必要なお酒とは有名銘柄や幻のお酒ではなく、料理を美味しくするお酒なのだとわからせてくれた。
料理にお客様がついていれば、それを1番に活かすお酒こそお客様の求めているポイントなのだ。
東京に飲食店の数は約8万軒。
それぞれの世界が必要とするお酒を共に考える酒屋はもう酒の勉強だけしていたら時代に置いていかれる。
関西割烹ふた川
ここが私の運命を変えてくれた1軒。一年間毎週通った。
六本木交差点の細い路地を香妃園の方へ進んだ奥まった飲食ビルの2階。
昭和初期に銀座で人気を博した割烹「出井」で長年料理長を務めたこの道50年の双川奏一親方、奥様、弟子の野村さんで営業している。カウンター6席、座敷2席。
現在は週4営業、一日一回転。大切な方をお連れする時にしか行かないお店。
味だけではなく、歴史も含めて、個人的な聖域というか、何と言えばいいのか、、昔から変わらない歴史の味を頂きに行く場所。
この時はワインで私を引っ張り上げてくれた恩人の福田さんと
メニューは12月
この場所は流れの客は来ない為、ほとんどが常連と紹介のみ。夜な夜な六本木の路地裏でこんな日本料理と日本酒の実験が行われてるのだ。これを始めたのが2013年からで、未だにセレクトしているので今年でもう10年になるのか…時の流れが速すぎる。
親方ももう70歳超えなので、健康に気を付けて長く現役で頑張ってほしい。
そして私を育ててくれて有難うございました。
何か悩んだ時に立ち返る場所は六本木の裏路地に在る。
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