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短編「生まれ変わったらネコ」

「ねえ、もし生まれ変わるなら何になりたい?」
 暑さの残る九月の風呂上り。恋人はいつもくだらない質問をしてくる。
「ほら、あるじゃん、そういうの」
「ん~じゃあ亜樹は?」
 どういうのだよ、とはつっこまずに、ひとまず時間を稼ぐ。
「ん~俺はね、ネコかな。安達さんに飼われてるネコ。ずっとくっついてずっと頭撫でてほしい」
「ネコ……」
「えっ、重い?愛が重い?」
「や、そういうことじゃなくて」
「なくて?」
「そうなんだ、と思って。あんまりネコって得意じゃないけど」
「来世の安達さんはネコ大好きだから大丈夫。リモートワークしてても絶対キーボードに座り込むような真似をしないネコになるから。ね?」
「ね?じゃないし。それなら人間同士でいいじゃん」
「え、来世でもまた一緒になろうってこと?愛の告白ってこと?」
「人の耳元で叫びません」
 目を輝かせてこちらに飛び乗ってくる恋人はすでに、さながら子猫だ。
「で、安達さんは?」
「んー……。宇宙を構成する何かになりたいかな。惑星とか」
「惑星……」
「惑星。ダメ?」
「死んだら星になるとかそういうこと?」
「や、そういうことじゃなくて」
「え、安達さんが来世、惑星になっちゃったらどうしたらいいの?俺は来世、その惑星に住む宇宙人とかってこと?」
「え、来世?」
「え、わかんない、俺安達さんのこと全然わかんないわ。そのすごすぎる感性について行けないわ」
「感性は、亜樹のほうがあると思うけど」
「そういう問題じゃないんだよなー。安達さんって鈍感なのかなーわざとなら人が悪いなー」
「どういうこと?来世でもずっと一緒にいようねって言ってほしかったの?そういうことなの?亜樹くーん」
「もう、うるさいー」
 九月はまだしばらく暑いみたいだ。

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