短編「東京フルーツパーラー日記」
千疋屋でパフェを食べるときは、ジンジャエールと決めている。
二〇二四年七月十六日
ご無沙汰しております。今回の東京出張はなんと三か月ぶり。それに伴い、こちらのブログ更新も三か月ぶりとなってしまったこと、ご容赦ください。
そういうわけで、今回は三か月分のパフェを堪能しようと東京は日本橋、千疋屋総本店に行って参りました。
グラスに注がれたジンジャエールを一口、口に含んだ後で、千疋屋スペシャルパフェを待つ間、吉岡はスマートフォンに文字を打ち込んでいく。あとでブログ記事にするためだ。
八年前に、出張の多い仕事に転職してからほとんど毎月、東京に来たときは必ずパフェを食べている。「東京フルーツパーラー日記」というタイトルのブログを始めたのは三年前。地道に更新し続けているからか、読者もかなり増えてきた。「パフェ愛に満ちている」とか「丁寧な文章で、つい読んでしまいます」とか「おじさんでもパフェを食べていいんだと勇気をもらえた」といった評価が多いだろうか。
五十代の独身男性にしては珍しいのかもしれないが(もう令和だからそんな人も大勢いるか、とも吉岡自身思っているが)、吉岡にとってはパフェとブログが生きる糧だ。
千疋屋総本店などという豪勢な場所に、スーツ姿で一人入店するのももう怖くなくなった。もっと言えば、一人でパフェを食べているということに対する他人からの視線も、もうほとんど感じない。
だから、パフェがおいしい。
「お待たせしました」という声とともに……ベストを着こなしたウエイターの丁寧な手つきで目の前にふわりと降り立ったのは千疋屋スペシャルパフェ。美しいフォルムのパフェグラスにバランスよく並んだフルーツが見事です。キウイ、メロン、スイカ、オレンジ、パイナップルにバナナと、豪華。メニュー表では、生クリームのてっぺんに鎮座していたのはいちごでしたが、今日は丸々と立派な巨峰でした。旬ですね。種もなく、皮も渋みがなかったので、そのまま全て食べてしまいました。
何も纏っていないにもかかわらず、それ自体が光を放っているかのようにみずみずしく輝いているフルーツに、やわらかくあたたかなオレンジ色の光が反射している。
ブログ用に、正面から一枚、斜め上から一枚の写真を撮ったあと、ずっしりとした生クリームを一口掬う。五十代男性の自分でも、鈍く銀色に光る細長いスプーンを持つと、手つきが丁寧になるのが我ながらおかしいと、パフェを食べるたびに吉岡は頬が緩んでしまう。見た目に反してあっさりとした生クリームが口の中ですぐにほどけ、ため息をついてフルーツ、アイスクリーム(バナナとマンゴーの二種類)、生クリームに挟まれたマンゴーのソースとさくらんぼの甘酸っぱいソースを交互に口に運ぶ。合間に飲むジンジャエールのはじける泡が、甘い口に心地いい。
みなさんが気になるお会計は……
千疋屋スペシャルパフェ 三〇八〇円
セットドリンク 三八五円
合計 三四六五円でした。
三か月ぶりなので、豪華になりました。もっと奮発しようと思えば、完熟マンゴーパフェ四四〇〇円もかなり気にはなったのですが……。やはり千の位の数字が大きいとためらってしまいますね。パフェもいつまでおいしく食べられるかわからないのに……。
あ、つい弱気になってしまいました。
みなさんも、気が向いたときにでも、特別なときにでも、ぜひ行ってみてください。
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