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11. 画家の眼を重ねて視る、見えないものの中にある真理を探して



時間がぽかっとあいたら美術館か映画館、それとも思い切ってどこかひとおもいに出掛けたいと思っている。いま一番、行ってみたいところを聞かれたら「美術館へ!」と言うだろう。

企画展なら、一つのテーマでの、さまざまな書き手の翻訳に出会えるだろうし、特別展であるなら、ひとりの作家の初期の作品から晩年、筆をおく前の最晩年の描いたものを一気通貫して、みることができる喜びがある。

ゴッホやピカソでは、画家を志した頃から繰り返し描いた素描の数々やエッチングの技法などをみるにつれ、全盛期と全く異なる表現があり、見るに楽しいし、猛々しい描き方、色のおき方を、線を眺めていると混沌とした苦悩や喜びもみえて、感慨深い思いがある。年表や解説を読み、作品を見くらべて心情を探るのも、いい。

ちなみに、トップの絵はゴッホの「レストランの内装」。初期の「雨」という作品も胸を打たれる。詩的だ。

タヒチや動物など、楽園の美しさを生涯にわたって多く描いたゴーギャンだが、「オレンジのある静物」などをみると、ハッとする。作家の新たな才能を見出したような気になる。そのみずみずしい、甘そうな果実の色、ほどよい重さに。

神奈川から、時々手紙をくれる友人はポストカードが好きで、その裏に、近況報告とこんな一文を書いて送ってくれた。
「シャガールは細かいところがみっちり変なものが描きこんであって面白いよ」(写真)と。自らも絵を描くAらしい。なるほど、確かにそう。ポストカードをみながら、シャガール展やパリのオペラ座でみたシャガールの絵を思い出す。

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セザンヌは、生まれ故郷である南仏のエクス=アン=プロヴァンスの東側にそびえる石灰質の山、「サント=ヴィクトワール山」の連作を、季節・歳月を変えて、何枚も、何枚も描いていて、そういったものを観ると、作家がその時々でみえていた風景、現実にはみえない心象を想像できて、実に興味がわく。面白い。セザンヌの緑はしっとり濡れたヨーロッパ的な色。


ここで、なにを伝えようとして、パソコンを開いたかといえば。
フランス印象派をはじめ、作家が各時代の中においてとらえた風景。すなわち、作品は「画家が視た眼」の先を、イマジネーションとして思い描いてみることのできる、稀少な価値ではないかと、わたしは思う。
「黒い街路樹」という絵があったなら、一枚の絵を通して、画家のみたものを、時を超えて、重ねてみる創造力というか。 

絵筆を走らせている時の画家の眼に、その肥えた土地に、思いを馳せられることが、わたしの美術鑑賞の醍醐味なのかもしれない。

ボナールや、バルティス、ユトリロ、ツーリ•リー、ジョージオ・オキーフはスキ。そして、日本画の小倉遊亀や松園先生にいたっては、感服し、崇拝している。

時に若い時代の作品と、おじいちゃんやおばあちゃんになってからの作品の両方がたまらく、愛しい。

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(小倉遊亀の「秋果」「家族達」)



暮らしに絵画があると、空間に風が吹く。別の時間へと続いていくような広がりが生まれる。

と。ここまで書いて、昨日のnoteのことをふと考えた。

作家の紡いだ物語とともに、外の世界を探訪すること。
わたしが視るただ一つの豊満すぎる景色は、魔力のように心を魅了する。

これって。同じことを伝えたがっているのかもしれない、と思った。そう昨日の投稿のあとすぐ書き始めたし……。

作家の描いた本の中のドラマ(物語)を旅することは、描きたかった対象をみると同時に、作家の眼と手、「創作の現場」を復元してみたかったのかもしれない。と思えたりした。読むこと、鑑賞することは、作品性を味わうとともに作り手の人間を訪ねること。なんですね。

以前、書家の川尾朋子さんを取材した時に、こうおっしゃっていた。

「往年の古典作品を臨書(模写)することが日課です。
『書』は全て書く順が決まっているので、3千年前に書かれたものでも、どこから書いてどこで終わっているかが読み取れ、追体験できることが素晴らしい。(一部省略)
「書」の臨書を深め、偉人たちの拓本などを色々読み解くなかで、何千年もの時を超えた文字の美しさを眼と心で感じ、その時代背景や温もり、文字を書く人の深い息づかいに想いを馳せながら、もっと彼らに近づきたい。そして上達したい。偉人たちの作品を血肉にし、自分のフィルターを通して、今しかできないものを作っていきたいという気持ちが湧き上がるのです」

川尾さんは、「どこまで行っても追いつけないほど自分は未熟で、叱られている気すらします。墨の淡墨を眺め、その時代の道具にも目をみはり想像してみます」と付け加えられた。

外出がままならない昨今。せめてアートの本でも紐解いてみようか。もちろん、オリンピック鑑賞も。たけなわ、です。よい夏を!


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