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46. ユーミンの「晩夏」が脳内にリフレインする時



台風一過。あれだけ、大騒ぎしたのに通り過ぎるとあっという間。いろいろなものが一掃され、そこに新たなものが入ってくるようだ。季節はめぐる。トップの写真は今年一番の夏の夕暮れ。
鹿児島を旅して、斜行エレベーターを降りて空をみた時に、海原みたいな空の色に、夕焼けが茜色に染まり、映画みたいに綺麗だった。


ひんやり冷たい風が、肌にあたる。朝と夕方、ホッとひと息つく。真夏のあのカンカン照りの熱さは眩しいくらいに好きなのに、残暑が苦手なのはなぜだろう。9月は、物憂い。毎年そう思う。


ふと思い立って、荒井由美(松任谷由実の旧姓)最後のアルバム「14番めの月」の中に入っている「晩夏」(ひとりの季節)を聴いた。

しんみりとして、いい曲と詩。描写の天才だなと思う。ユーミンのまだハリのあった、高音を突き上げるような美声で唄われたら、やはりファンとしてはたまらない。いまの気持ちにぴったり。




①  ゆく夏に 名残る暑さは
夕焼けを吸って燃え立つ葉鶏頭
秋風の心細さは コスモス

何もかも捨てたい恋があったのに
不安な夢があったのに
いつかしら 時のどこかへ置き去り

空色は水色に 茜は紅に
やがて来る淋しい季節が恋人なの



②丘の上 銀河の降りるグラウンドに
子どもの声は犬の名をくりかえし
ふもとの町へ帰る

藍色は群青に 薄暮は紫に
ふるさとは深いしじまに輝きだす
輝きだす
「晩夏」荒井由美



短い詩。多くを語らない。けれどしんみりと伝わる詩。

夕焼けを吸って燃え立つ葉鶏頭———。このフレーズよ、


丘の上 銀河の降りるグラウンドに
子どもの声は犬の名をくりかえしーーー、もうここで、情景が浮かんでくる。深みをおび、たなびくように濃くなっていく、日本の空。そして空気のいろが瞼に映る。


中秋の名月も過ぎたのだから、もう完全に秋にむかっている。というか、昨晩はゴーッと空がうなっていた。激しい風が、緑の葉や枝をゆらし、波音となってきこえてくる。

それでも、まだかろうじて晴れ間がでると、今日も蝉が鳴く。残暑のだるい鬱蒼とした熱さのなか、思い出したように、蝉が鳴く。まあ、鳴くといっても声が涸れている。


イーー、ツクツクボーシ!

最後の交配を求めて、自分の子孫を残すために必死でアピールしているのだと思うと、切ない。
オスは何度でも交配できるが、メスは一度交配すると受精を行い、産卵に入るために他のオスを受け付けないらしい。オスは声の限りに鳴き叫び、必死でメスを探す。そうやって探しても一生のうちたった一度たりとも交尾できず死ぬオスがいる。一匹が、十匹のメスと交配するとすれば?聞くところ、37%も悲しいオスはいるらしい。

人間も、セミも、アピール上手でないと、ね。
刹那である。


昨晩は、明け方に蚊に刺されて目が覚めた。
蚊は、花の蜜を吸うらしいが。メスの蚊だけは産卵のために人間や動物の血液を吸うのだという。そう思うと、少々のかゆみがあれど、パチンと叩こうという気にもなれない。(ナンテ。そんなことはない)

ついこの間まで、白やピンクの芙蓉が咲いていた。さるすべりもそう。白やピンクの花がたわわで、南国の花みたいで好きだった。
そして、気づかないうちに、ある日突然に、ニョキッ!ニョッキリ、と顔を出す笹百合も。いつのまにか、姿を消していた。

時がすぎゆく。今年もあと3カ月と少し。飛ぶように過ぎていく日々の中で、夏に大事なものたちを、落としていった気になる。

はやく、香りの実がはじける秋がくるといい。


そして、きょうも晩夏を聴く。夏を惜しむ。



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