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✿花を生かし、花に生かされる

「花を生かし、花に生かされる」

これは私がいけばなを学ぶ中で、何度もくり返し聞いてきた大切ないけばなの精神、教えの一つです。

今でもよく覚えているのですが、この言葉を初めて聞いたのは、いけばなを習い始めて間もない頃に参加した、ある展示会でのこと。
初めていけばなの展示会を見に来られたという年配の男性が、
「いけばなとフラワーアレンジメントの違いは、何ですか?」
と尋ねてこられました。

「花の向きやバランスの違いかな。空間の生かし方の違いかな」と、技術的な違いばかりを考えていた私の予想を大きく裏切って、一緒に男性を案内されていた先生は、こうお答えになりました。

「いけばなでは、『花を生かし、花に生かされる』という教えを大切にいたしております。」

「なるほど、奥が深い世界ですねぇ」と、質問された男性も感心しておられましたが、その隣で聞いていた私の方がまさに目から鱗が落ちる思いで、
「なるほど!! 生かし生かされる!! いけばなって、なんて奥深い!! なんてかっこいんだ!!」と、質問されたご本人以上に、先生のお言葉に深く深く感動してしまいました。

思い返すと当時の私は、さらりと深い言葉で本質を伝える先生のお姿に、「私もこんなふうにかっこよくいけばなを語ってみたい!」という浅はかな思いを抱いただけで、「花を生かし、花に生かされる」という言葉の本当に意味するところを理解しようとは思っていませんでした(笑)。

けれど、おぼろげながら、「どうも、いけばなとは花を美しくいけるということだけではないみたいだぞ」「花を生かすのはわかるけれど、花に生かされるって、どういうことだろう?」と、いけばなの美しさの奥にあるものについて考えるきっかけを私に与えてくれた出来事となりました。

それから長い間、花に触れる中で、何度となく「花を生かすこと」「花に生かされること」について考えてきました。
人間は、大いなる自然に「生かされている」とか、社会の中で多くの人々に支えられて「生かされている」とはよく言われるけれど、「花に生かされる」とは、どういうことなのか。

きっと、「生きること」の意味が人それぞれのものであり、人の数だけその答えがあるように、「花に生かされる」ということもまた、人それぞれに意味を持つものだろうと思います。

私にとっての、「花に生かされる」ということ。

それは時に、花の美しさに心を動かされ、花の命の尊さを感じること。それと同時に、自らの「生」の尊さを実感することであったり。

時に、環境をあるがままに受け入れながらも命の限り生き切ろうとする花や草木の姿に励まされることであったり。

時に、自分以外の他を思いやる愛と調和によって、より豊かに温かく心が満たされることを知ることであったり。

時に、花をいけるという自然と人が一体となった表現の世界の中で、新鮮な美と調和を創造する純粋な喜びを感じることであったり。

これら以外にも、花をいけることを通し、知らず知らずのうちに受け取ってきたこと、学んできたことは数えきれません。

今、私にとって「花を生かし、花に生かされる」ということは、
それは、どんなときも常に、花とともに「生」を生きるということ。

花とは、いずれ散りゆくことも含めた「生」の喜びそのものです。
そして、「花と生きる」とは、「生」を喜び、生きること。
いつでも、どんなときでも、生きることを楽しみ、花と生きる。
それが、私にとっての「花をいける」ということです。

これからも、生かし生かされる喜びを大切にしながら、花とともに生きていく道の中で、新たな気づきや思いを深めていきたいなと思っています。


✿今日の花からのメッセージ✿
「花を生かし、花に生かされる」


ikebana & flower salon  "& Serenity"   文香

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