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映画『劇場』、人間の弱さが表現された行定監督の最高傑作

1、作品概要

作品名:『劇場』 監督:行定勲 原作:又吉直樹 製作国:日本 上映時間:136分 製作年:2020年

7/17に公開された映画『劇場』を鑑賞しました!

映画館と、AmazonPrimeの同時公開は非常に新鮮ですよね。この映画、元々は全国280館で公開予定が、コロナの影響で20館に縮小されたそう。とはいえ、本当にいい映画だったので多くの人に届いてほしいと願っています。

『劇場』は、私がここ最近観た映画の中で最も心に残る作品となりました。本当に、本当に、良かった。その1番の理由は、「共感」にあると思います。主人公の永田はクズ男で、恋人の沙希はぶりっ子で、観る人によってはイライラすると思ってしまうかもしれません。ただ、私は二人ともに共感ができて、号泣してしまいました。

そのように思えるのは、又吉さんの原作はもちろん、監督の演出、主役二人の演技があるからこそだと思います。

この記事では、個人的に感じたことを書いていきます。ネタバレ含みますので、まだ観ていない方はご注意下さい!


2、あらすじ

夢を叶えることが、君を幸せにすることだと思ってた—
演劇を通して世界に立ち向かう永田と、彼を支えたいと願う沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会った。中学からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしま う。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想。そのはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履 いている沙希(松岡)を見かけ声をかける。自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放って おけなく一緒に喫茶店に入る。女優になる夢を抱き上京し、服飾の大学に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。お金のない永田は沙希の部屋に転がり込み、 ふたりは一緒に住み始める。沙希は自分の夢を重ねるように永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いつつも、理想と現実と間を埋めるよう にますます演劇に没頭していき―。「一番 会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことが、なんでできなかったんだろうね。」

引用:https://filmarks.com/movies/85255


3、ただのイケメン俳優ではない、山崎賢人

主演の山崎賢人さん、驚くほどに永田でした。見た目もですが、滲み出る雰囲気までしっかりと出来上がっていて感服しました。本当は弱い人間で怖くて仕方ない、でもそんな自分を隠すために強がって大きく見せようとする、そんな人物像がきれいに見えました。

私は、山崎さんのファンというわけではないのですが、彼のことをかなり前から知っています。小学生の頃、『ピチレモン』という雑誌が大好きでした。その雑誌のメンズモデルとして出ていた山崎さん、当時中学生くらいでしょうか。その後、深夜ドラマに出るようになり、少女漫画の実写映画の主役をやるようになり、というイメージです。

正直、イケメンではあるけど演技は微妙という印象でした。ただ、ここ最近の山崎さんは本当に素晴らしく、色んな役柄ができる方なのだと感じさせられます。本作ではクズ男、『キングダム』では、夢に燃える熱き少年と役の幅を広げて、それぞれしっかりと演じ切っています。

本作は、永田を山崎さんにキャスティングしたことも凄いと思います。今までの山崎さんは、キラキラ王子様を演じることが多かったはずです。いわゆるクズっぽいような俳優、例えば成田凌さんや、池松壮亮さんをキャスティングすることもできたところ、今までのイメージとは真逆の山崎さんをキャスティングしたこと、脱帽です。


4、性描写がない愛の表現

『劇場』には、セックス、キスなどの性描写が全くありません。唯一あるのは、手をつなぐシーン。性描写を入れることで、手っ取り早く愛を表現できるものだと思います。そういった表現を使わずに、永田と沙紀が本当にお互いを求め、愛し合っていることを表現していることに、心が温まりました。不器用ですれ違う二人ですが、愛ってこういうものだよなと感じさせられます。また、そんな中で手をつなぐシーンがあることで、一気にこの映画の温度感が高まっていると思いました。

行定監督は、インタビューでこのように語っています。

(性描写を)書くのは簡単だし、僕だって描くのは簡単。山崎も言っていたけど、キスもしていない。そうすると、手を握るだけで際立ち方が半端なくなるんです。この2人って、大切な人間に欲望みたいなものをぶつけ切れないんじゃないか?と話し合ったことがある。


本編では直接的な描写はありませんが、劇場のスタッフと関係を持つような描写があります。大切で失いたくないからこそ、相手に嫌われるような行動をとりたくない。恋愛の微妙な感情が、見事に表現されていると思いました。

劇場1


5、最後に

「何でもかんでも笑い飛ばす必要なんてないと思ってる。でも、最後に笑えたらいいって思ってる。」

『劇場』で最も印象に残ったのが、このセリフです。

『花火』では、

「生きている限りバッドエンドはない。僕たちはまだ途中だ。」

という台詞がありました。

言葉は違っても言っていることは似ています。辛いことがあったとしても、それを無理に美化する必要はない。最後にハッピーエンドだったらそれでいい。『花火』も『劇場』も、そんなメッセージが心に響きます。

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