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『PERFECT DAYS』が本当にパーフェクトだった

「観た?」
「観た」

それだけで共有できる映画で、言葉にすればきっととても安っぽくなってしまう。
言葉にするのがもったいない気さえする。
それでも、せっかく観たので記録としてすこし。


この記事は映画『PERFECT DAYS』の感想を書いています。
まだご覧になっていない方は注意してお読みください。


役所広司さんが演じる平山は、都内の公衆トイレの清掃員。
スマホもPCも持たない。
風呂なし、洗濯機もないアパートでひとり暮らし。

老婆がほうきでアスファルトをなでる音が目覚まし代わり。
歯を磨き、ひげを整え、植物に水をやり…毎日変わらぬ手順で身支度をして仕事に出かける。
ポケットには、フィルム式の古いカメラ。

玄関を開けて空を見上げ、目を細める。
晴れていても、雨降りでも、これから始まる新しい1日にわくわくしているような。

いつもの缶コーヒー
いつもの道
カセットは日替わり。

ひとつの無駄なく、かつていねいに公衆トイレを拭き上げ、いつもの神社でサンドイッチと牛乳の昼ごはん。
そして胸ポケットに忍ばせているフィルムカメラで、木漏れ日をぱしゃり。

仕事を終えると銭湯でひとっ風呂浴びて、その足でいつもの居酒屋のいつもの席につく。

帰ってくると古本を読み、眠りに落ちる。
そしてまた老婆が掃き掃除をする音で、目が覚める…。


休日も休日で、変わったことはなにもしない。
コインランドリーで洗濯をすませ、写真を現像し、古本屋で本を買い、馴染みのママがいる居酒屋へ。


変わらない毎日を送る無口な平山の、豊かな表情。

変わらない毎日に飛び込んでくる異分子・ハプニングに眉をハの字にしながらも受け入れ、噛みしめる平山。

それは同僚のタカシであったり、突然訪ねてきたニコであったり、はたまたママの元夫であったり。


変わらない毎日だけど、1日たりとも同じでない。
◯と✕がひとつずつ増えていくように、毎日ちょっとずつ違う。


平山の過去はほとんど語られないが、平山はきっと自分の意思でこの世界のこの生活を選び、自分の意思で変わらない毎日を送っている。

自分の意思ではどうにもならないことに、ほとんど文句もいわず、穏やかに目を細めている。ただただ受け入れている。


変わらない毎日だから、ハプニングさえ愛おしむ余裕があるんじゃないか。
余計なことをしないから、余計なことが飛び込んできても抱擁できる。
あるいはよほどの壮絶な過去を経験してきたからこその達観なのかもしれないが、平山からは少年のような透き通った純粋さも感じられた。

平山が送る毎日も、平山の心も、水彩画のようにやさしく、うつくしかった。


かたやわたしは日々PCに向き合い、スマホも使う。
規則正しい生活どころか納期が重なれば睡眠を削り、きっと本当はそんなに忙しくないはずなのに「忙しい忙しい」と眉をつり上げている。

もうすこしスローダウンしてアナログに生きたいと思った。

だってラストシーンで見せる平山のあの表情が、ミニマルな日々の愛おしさをすべて物語っている。


役所広司さん、大好きになりました。



今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたの理想の毎日は、どんな日々ですか。


『PERFECT DAYS』はこちら。

豊かさを見つめ直したい方、年末年始にお時間あればぜひ。

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