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眠れない夜

眠れない夜。

小さい頃は何も考えずに眠ることができたのに、小学校高学年くらいになると眠れない夜が増えた。布団にもぐっても、目は冴えたまま。「いつもどうやって眠ってたんだっけ?」と考えているうちに、自分の心臓の音が聞こえてくる。真っ暗な部屋で一人、自分の鼓動に耳を澄ませば、頼りない自分が浮き彫りになるようで怖くなった。

夜眠れないと焦る。焦れば焦るほど心臓はどきどきしてくる。夜という得体のしれない時間は、捉えどころがなく漠然としていて、その深さが怖かった。

大抵の場合、眠れないときは何か不安なことがある時だった。大会や発表があるとき。自然学校や修学旅行。慣れない場所での夜は、他人の寝息を聞きながら、「ああ、今私は一人なんだ」と小さな孤独を味わうことになった。もそもそと布団から這い出て、周りを見渡す。「みんな寝ているなあ」と疑いようもない事実を目の当たりにし、私は水筒に入っているぬるい麦茶を飲んだ。

不安の種は、夜になるとむくむくと成長するのだ。昼間見た怖いニュース。昼間に読んだ怖い小説。あとは友達のこと。明るいうちは何ともないのに、どうして暗くなると嫌なことばかり考えるのだろう。

何度も寝返りを打ち、お茶を飲み、意を決して目をつむるが一向に眠気がやってこない。「このまま眠れなければ、明日私は倒れる!」と追い打ちをかけるように、あることないこと想像しだすのだ。しかし、そんなことしているうちに、いつのまにか朝になってちゃんと目が覚めるのがオチである。さらに言えば、眠れなかった夜の次の日というものはぐっすり眠ることができるのも約束されていた。

今になっても眠れない夜は訪れる。

そんなときは必ず本を読む。本の選択も重要である。続きが気になる本、ホラー、暗めの本は眠れない夜に読む本としては相応しくない。わくわくするような本もだめ。もっと、気楽に読める本がいいのだ。

そんなときはエッセイがぴったりなのだ。何も構えずに読むことができるし、内容も短めかつ軽く面白い。というかエッセイはいつ読んでも100%楽しめる。読みながら眠たくなるのを待つのだ。不安なことがあっても、本に集中していればこれ以上考えなくて済む。

本を読んでいたって眠れないときもある。そんな時はなにもせずに布団に入って、思う存分自分の思考に付き合うのだ。疲れるが、仕方のないことである。本当は今すぐにでも眠りたいが、そうもいかない眠れない夜は、うだうだうとやり過ごすに限る。眠れなくてどうしようもないのに、必ず朝が来るから大丈夫なのだ。


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