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ケース23. レヴィン3段階組織変革モデル〜戦術転換を生むコンセンサス〜

▶︎新しい取り組みが浸透するためには?

事業や組織の課題を解決するために、新しい取り組みが実施されども、気付ければ形骸化してしまっていたことはないでしょうか?

経営の視点:
・自社をより良い組織にしていきたい
・号令をかけても現場が変わっていない

現場の視点:
・健全に変われる組織にいたい
・新しい取り組みをしても変わらないと組織の未来に不安になる

伝統的な歴史や強いビジョンを有するほど、組織には慣性が生じて、簡単には変化できません。
その背景には、既得権益もあれば、誇りとなるサービス品質や成功体験の伴うやり方もあったりと、関係する人を慮る心情によって変化を憚る集団心理が存在します。

そこで、今回は組織変革モデルという概念に用いて組織変革の成功要因を考察します。

▶︎レヴィンの3段階組織変革モデル

社会心理学の父と称されるクルト・レヴィンが提唱する、変革には解凍、変革、再凍結の3段階のプロセスが必要だとする変革モデル。

3つの段階はそれぞれ下記の通りです。

①解凍
変革に対する抵抗となる既存の価値観、やり方を解凍して変革の必要性を浸透させる段階
②変革
新しい行動や思想を学習できるように具体的な施策を実行する段階
③再凍結
変革の成果を検証して意義を浸透することで新しい行動や思想を定着化させる段階

変革においては、事前の仕込みとして「なぜ変革するのか」とのコンセンサスを得て受け入れの種を植えること、事後の仕込みとして「変革して良かった」とのコンセンサスを得て長期間維持していく幹を太くすることが肝要とする理論です。

多くの変革は、人の現状維持バイアスを考慮できずに、いきなり変革を叫ぶことによって協力を得られずに不発となります。

それでは、凍結→変革→再凍結の流れを作るためには、どのような取り組みができるのでしょうか?

▶︎未来に関する対話を生むマネジメント合宿

凍結段階では、変革の必要性のコンセンサスを得ることから始まりますが、多くの場合、変革が必要と感じられるきっかけは、市場にどのような価値をもたらすべきか、と外向きな志向が生まれたときにあります。
権力闘争などの内向きな志向では、それまでの既存の価値観が多数派であるため、変革よりも既得権益を守る保守的な動きの方が優位になります。

アメリカの経営学者ピーター・センゲ氏の著書『学習する組織』で説かれている下記の数年以上先を見据えた組織の方針を決める意思決定ではPDCAを回せないとの前提も保守派が優勢となる要因です。

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組織の前に立ちはだかる学習ジレンマの核心がある。つまり、私たちにとって最善の学習は経験を通じた学習なのだが、多くの場合最も重要な意思決定がもたらす結果を私たちが直接には経験できないのだ。組織内の最も重大な意思決定は、システム全体に、数年あるいは数十年にもわたって続く結果をもたらす。
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そのような不確実な未来に対してオーナーシップを持って変革するには強烈な推進力が必要です。

冨山和彦さんの著書『結果を出すリーダーはみな非情である』では、ミドルマネジメントこそが現場や顧客、トップマネジメントと多くの関係者から一次情報を取ることができ、トップマネジメントより身軽であることから、組織変革を主導するキーだとされています。

そこで、ミドルマネジメントが個人や自チームの内向き志向から、市場と組織の未来を接続させた外向き志向で、今の危機感の共通認識を図れるように対話を促進することが有効と考えられます。
日常的な会議では目先の視点に意識が集中しやすいため、非日常的な機会として下記のようなテーマで合宿を設け、俯瞰した視点で現状に危機意識を持つことが、解凍段階を推進するための一つの手段となります。

①中長期ビジョンのすり合わせ
②自社コアコンピタンスの確認
③最重要課題の特定
④諸施策の優先度検討
⑤市場環境の変化の探索

この際、同質性が強すぎると、集団としての能力に過度の自信を持ち根拠のない楽観主義が芽生えてしまうグループシンクに陥りやすいことに注意が必要です。
多様な意見を交わすことできなければ、リスクに強いチームをつくることができません。
グループシンクに関する記事


▶︎パイロットチームで成功事例をつくる

変革、再凍結段階では、リスクに対する抵抗派の主張を抑えながら、効果検証することがポイントです。
実行責任に見合うだけの権限がなければ、推進力を高められず中途半端になってしまうため、成功事例をつくるために、先行して試行錯誤するパイロットチームの組成することが有効と考えられます。

例えば、従来より量の担保のためにアポ数をKPIとしていた組織が、質を追求しようとしよう商談化率をKPIに切り替えるには、量を成功要因として捉えている層からするとリスクに感じられ、変革段階おいても粗探しのようにネガティヴな意見が蔓延して頓挫しやすくなります。
また、中途採用で入り口から要職につけるパラシュート人事を避けて内部登用を重視していた組織が、組織のマネジメントレベルを高めようと外部採用するにも、変革段階において「自社のことをわかっていない人にマネジメントはできるわけがない」と協力姿勢を得られずに採用後に失敗しやすくなります。
どちらのケースにおいても、抵抗派は最悪の失敗はそれまでの成長や伝統を失うことにあると全うなリスクヘッジの見解に基づいていることがあり、そのリスクを受け持つトライが必要です。

そのため、変革段階においてパイロットチームで仮説検証と成果創出を繰り返し、成功事例をつくって広めていく仕掛けが有効となります。
そこから、横展開していくことで、再凍結段階で意義が認知されて定着していきます。

変革に対しては、ネガティブな意見の方が出やすく、推進者には大きな負荷がかかるため、抵抗派に対抗するための権限委譲が重要となります。
自己決定感に関する記事

▶︎大義を掲げてコンセンサスをとる

組織が急成長したタイミングは、組織の構造や運営方法に綻びが生じやすい時期とされています。
そのため、中途半端な変革では、むしろ組織の混乱を招いてしまうことがあります。
変革は実現したい目的と乗り越えたい課題があってこその取り組みであり、関係する人々の意識から変えられるように大義を掲げてコンセンサスをとっていかなければなりません。
特にスモールスタートな新しい施策は初期段階では推進力があっても、気づけば形骸化しがちなものです。

リブコンサルティング常務取締役の権田和士さんの著書『モンスター組織 ~停滞・混沌・沈没…8つの復活ストーリー~』では、下記のように、組織変革を成功させるためにはパターンを知っていくことが重要だと述べられています。

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組織変革の成功率は、「症例数に比例する」である。万能な処方箋があるのなら症例数が少なくとも名医になれるのかもしれない。が、万能薬がないという前提に立つのなら、病状の特定こそが重要である。組織メ力二ズムが組織心理に根差し、組織の環境変化や対立構造も巻き込んだ高度なコンテクスト把握が必要なのであれば、なおさら症例数が名医になる上での条件になると考えた。
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正解がない中で健全な組織運営をしていくには、最大限の合理的な舵取りと、最大限の人の意志の両輪が必要なのではないでしょうか。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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