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ケース9.サービスプロフィットチェーン〜顧客体験を高める従業員体験〜

▶︎従業員体験こそがサービス品質の源泉となる?

あらゆる職場で顧客に提供するサービス品質の追求を重要視していれども、意図して高めることの難しさを感じることはあるではないでしょうか?

経営の視点:
・業績向上のために顧客を増やして定着させたい
・従業員の退職やモチベーション低下によってサービス品質が低下してしまう

現場の視点:
・関わる顧客に喜んでもらえると嬉しい
・自分に余裕がないと顧客に向き合いきれない

情報化社会が進み、モノやサービスの差別化が困難になっている昨今。
競合に打ち勝つには、顧客接点を持つ人の力が重要となります。

そこで、今回は従業員体験(EX)が顧客体験(CX)に影響を及ぼすことを体系立てたサービスプロフィットチェーンという理論について考察します。

▶︎サービスプロフィットチェーン

1994年にハーバード大学のヘスケット教授とサッサー教授が提唱した企業が従業員を大切にすることで、従業員のサービス品質が向上し、その結果顧客の満足度、そして企業収益の向上につながるという考え方。


下記のように、人に対する投資を起点としてサイクルを回していきます。

1.社内環境を改善することで従業員満足度が高まる
2.高い従業員満足度が高い従業員ロイヤルティへ
3.高い従業員ロイヤルティが、従業員生産性向上の原動力となる
4.高い従業員生産性が、サービスの品質向上へ
5.高いサービス品質が、顧客満足度の原動力へ
6.高い顧客満足度が、顧客ロイヤルティの原動力へ
7.高い顧客ロイヤルティが、企業の収益性と成長性の原動力につながる
→1の投資へ


主に顧客接点を多く持つ接客サービス業において重要視されている理論です。
例えば、スターバックスはカフェ業界の中でも、評価制度や社内キャリアパス、福利厚生を工夫することにより従業員体験を高めてから顧客体験を高め、競争優位性となるブランディングを築いています。

貢献意欲は人の基本的欲求。その意欲を喚起する環境であれば、人は自然とより良い仕事をするようになるとの考えに基づいてます。

サービスプロフィットチェーンを回すためには、どのような取り組みができるのでしょうか?

▶︎期待をすり合わせるコミュニケーション

EXは、体験+期待+認識によって形成されるとされています。
何を提供したのかだけではなく、従業員が何を期待して、どう認識したのかによって心理状態は変わることを抑えなければなりません。

また、期待は下記のようにさまざまな外的要因によっても変化し、不明確さや不透明さ、一貫のなさ、拡大解釈、誤解によってズレが生じていきます。
①企業文化やコーポレートブランド職場から生まれる理想
②経営者や上司のメッセージ
③同僚や仲間からの噂
④世間一般に流れるニュースや情報

そのため、可変的な期待を明確化をするために対話が重要なります。
EXは個々の主観によって形成されるため、報酬や仕事環境、福利厚生、研修といった環境設計よりも対話が大きな影響力を持ちます。
特に報酬に関しては、他者と自身の努力量と成果を主観的に比較されることで不平不満が生じやすいため、より対話をしなければズレが生じることに注意が必要です。

例えば、Yahooでは2012年に「社員一人一人の才能と情熱を解き放つ」をコンセプトとして1on1の運用が始動しました。
それまで上位下達であった情報の流れを双方向に切り替えることで、業務やワークライフバランス、キャリア設計、人間関係といったさまざまな悩みの解消を図り、EXを高めています。

対話を通じて、現場の期待に対する組織の打ち手を設計することもさることながら、期待を言語化させるフォローによって過度な期待を抑制することがEXの向上に繋がり、サービスプロフィットチェーンを促進すると考えられます。

また、誠意のある対話は好意の返報性を発生させ職場の雰囲気を良好にすることにも繋がります。
※返報性の原理に関する記事

▶︎自社に所属することの誇りを持たせるコーポレートブランド

世界70カ国の組織に従業員エンゲージメントのアドバイスを提供しているトレイシー・メイレット氏の著者『エンプロイーエクスペリエンス』では、エンゲージメントを高める環境設計として、ブランド契約に注目されています。

ブランド契約とは、世間からどのように見られているかを従業員が認知する概念です。
世間からの評判やメディア発信、職場の従業員の振る舞いによって形成され、入社前から入社後まで潜在的に従業員の「どんな組織に所属したいのか」と願望を示します。

科学的管理法に準拠した旧来のマネジメント手法は外発的なインセンティブを設けることで従業員を動機づけしていくかを起点としていることに対して、OKRを筆頭した昨今のマネジメント手法では人の内発的なやりがいを高めることに注目していますが、ブランド契約は「この組織の成長と共にすることが自分の誇りだ。もっとがんばりたい」といったように「〜したい」意欲を高めることに活用ができます。

人は大きな目的の一環だと認識できていれば目の前の仕事に意義付けができるため、組織の目指す方向性にワクワクさせることと同時に、その発信を対外的にも行うことで、従業員満足度が高まり、サービスプロフィットチェーンのサイクルが回っていくと考えられます。

GAFAやBATHでは、自社のミッションビジョンの意義付けから職場環境への投資を大々的に発信することで、所属する従業員の誇りを醸成し、より強い組織づくりを図っています。
職場の雰囲気や人材力からもブランド認知の影響を受けるため、良い方向にも悪い方向にも相乗効果が発揮されやすいため、ブランド契約を高められている企業ほど成長を加速させやすいのです。

▶︎自社の人材力を大切にすることが競争力

トレイシー・メイレット氏の『エンプロイーエクスペリエンス』では、下記の3つがEXを高めるために必要な要素としています。

・EXを実現する組織に共通する3つの特徴
① 目配り:自分たちの言動が、従業員の期待、そして仕事や同僚への意識にどう影響するかに、細心の注意を払っている
② 興味:どんなことが従業員を駆りたてるのか、幸せにするのかに、あくなき興味をもっている
③ 根気:組織文化を変えたり、エンゲージメントを育てたりすることは、早く実現できる簡単なこととはないと理解している


最近では、従業員満足度とROAが相関があるとの研究がなされていたり、Airbnbは従業員体験最高責任者(CEXO)を設けたりと、従業員満足度を高めることの重要性が注目されています。

人材の獲得と育成の競争が激化の一途を辿るウォーフォータレントの時代だからこそ、従業員体験が顧客体験を高めるとするサービスプロフィットチェーンの重要度が増しているのではないでしょうか。

資本力のある企業では、待遇や福利厚生、研修といった環境設計によってサービスプロフィットチェーンを回すことができますが、人の心情を慮った工夫次第では、どんな組織であってもサービスプロフィットチェーンを回すことができると考えれるのです。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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