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#39 読めてもいいし、読めなくてもいいし。

先月、久しぶりにnote更新を休んだ。
サボったという言い方のほうが正しいような気もするが、理由は一応ある。

6月初め、突然右手に力が入らなくなり、お箸やペンを持つなど、右手を使う作業が出来なくなったのだ。長い文章を打つ作業も難しく、noteを書き終えられなかった。
病院に行ったが特に大きな病気ではなく、その後数週間かけてゆっくり治っていき、現在はほぼ完治している。

とはいえ、noteは毎月2日と決めているのだから、もっと余裕を持って書いておけば予定通り更新できたはずだが、まあまあそれは、まあまあいいじゃないの、である。

それにしても指先を使えない生活はとても不便だった。利き手だったので、なおさらだ。
握力5kgには、もうなりたくない。



そんなわけで今回は、前回(#38)の記事の続きである。

名前収集や研究をするなかで長年抱いていた疑問、実際のところ、人は人の名前をどれほど読むことができるのか?に対する答えを出すべく、家族に協力を仰ぎ、一覧にした名前を初見でなんと読むか、というアンケートをとった。

アンケートは、読みやすい・読みにくいなどさまざまなパターンの名前のデータが集まる、48グループのメンバーおよびジュニア(旧ジャニーズJr.)のメンバーの名前をベースとしている。
どちらもおおよそ1990年代半ば〜2010年代生まれで世代が似ている。また、各メンバー全員が本名での活動を基本としていることも重要なポイントである。

前回は48グループのメンバーについて取り上げたので、今度は男子名、ジュニアのメンバーの名前の実験結果を書いていこうと思う。

アンケートを作成した4月25日時点の、ひらがなやカタカナ表記の名前を除いたジュニアの人数は、186名
それらをExcelで一覧表にし、家族(父・50代/母・50代/妹・中学生)に見せ、それぞれぱっと見で浮かんだ読み方を教えてもらった。
アンケートをとる際はひとりひとりを呼び出して、人の回答に影響を受けないようにしている。

ちなみに、家族にジュニアのメンバーに関する知識はなく、ほぼすべての名前が初見である。


ではさっそく、その正答率や読み間違いの傾向などについてまとめていこうと思う。

ただ、家族はわたしの名前好きを間近で見ているので、世間一般と比べると、名前に対する知識が若干あるのは否めない。
そのことだけ、先に断っておきたい。

なお、メンバー名はすべて敬称略とする。


まずは、家族の正答率を見ていく。

▼父 119/186(64%
▼母 129/186(69%
▼妹 129/186(69%

母と妹は全く同じ正答数になっている。
前回の48グループよりも3人のパーセンテージの差は少ないが、だいたい6〜7割程度というのは一致している。

それでは、年齢が上のメンバーから順に、回答を細かく見ていこう。
3人の読めない名前が被っていることや、その誤答が似通っていることなど、だいたいの傾向は48グループのときと同じだった。


メンバー名|読み方|父の回答|妹の回答|母の回答

嶺亜(れいあ)は、シンプルな音読みの組み合わせであるはずだが、意外にも誤答が多かった。「れいあ」という響きの珍しさゆえに、正解に辿り着きにくくなっているのかもしれない。

大輝(たいき)に関しては、「たいき」と読むか「だいき」と読むか、はたまた「ひろき」と読むか、難しいところだ。
どれも確率は同じくらいに思えるが、全員が「だいき」と読んだのは不思議だった。
こういった名前は、誤読が当たり前とも言えるだろう。

秀生(ひでき)という名前はごく一般的な漢字と響きで構成されているが、3人とも音読みで読んで、誤答している。
このメンバーは2002年生まれだが、この世代だと「ひで」という響きはそう多くないため、より今どきっぽいような読み方をしてしまったのだろうか。

尚大(なお)は、「尚」だけで「なお」と読めるところに「大」を足しており、㉘置き字に分類される名前だ。
置き字は非常に難読になり得るが、今回の結果にもそれがよく表れている。

メンバー名|読み方|父の回答|妹の回答|母の回答

飛翔(つばさ)は、漢字のイメージや連想で読ませる⑨イメージ読みである。
この名前は割と単純で、よく見かけるパターンなので、個人的には読みやすいほうだと感じる。ただ一般的にはそうではないらしく、正答者はいなかった。

琉巧(るうく)は読むことがとても難しい名前だ。
構成を分類で説明すると、「琉(るう)」は「琉(る)」の㉒詩歌方式と考えられる。
「巧(く)」は「巧(たくみ)」の③中採りぶった切り、もしくは偏である「工(く)」だけを読んだ⑥部分読みと推測できる。
このような複雑さに加え、響きも珍しいため、この名前を一発で読むことはほとんど不可能なように感じる。

実悟(まさと)という名前はかなり難読だが、「実(ま)」は辞書に載っている名乗り読みである。ただ一般に知られている読み方ではないため、このアンケートのように誤読が発生してしまう。

翔馬(てんま)の「翔(てん)」は、「天を翔ける」という連想から読ませた⑨イメージ読みと考えられる。
イメージ読みの難易度が高いうえ、シンプルに考えると「しょうま」と読めるため、なかなか正解に辿り着くことはできないだろう。

小十侑(ことう)は、表記・読み方ともに非常に珍しい名前であり、由来がとても気になるところだ。
ただ、各漢字はそれぞれの音訓読みに則っており、無理な読ませ方はしていない。それでもこの名前をパッと読める人はいないのではないか。
家族の回答にも、かなり苦戦の跡が見られる。

メンバー名|読み方|父の回答|妹の回答|母の回答

海聖(かいり)という名前は、全員が「かいせい」と誤読しているが、「聖(ひじり)」の②後ろ残しぶった切りはなかなか難しいだろう。
しかし、「聖」を「り」と読ませるのはそれほど珍しいものでもなく、名前集めをしていると時々見受けられる。

一輝(いつき)光(こう)宗磨(しゅうま)なども家族全員同じ間違え方をしているが、それぞれ「かずき」「ひかる」「そうま」と読みたくなるのもよくわかる。
選択肢が複数浮かぶ名前は、難読でなくても一発で正しく読むことが困難な場合が多い。

宗冶(そうや)を「そうじ」と読んでしまうのは、「治(じ)」と「冶(や)」が非常によく似ているためだろう。
漢字の知名度は「治(じ)」のほうが高いであろうし、瞬時に「冶(や)」を認識することは難しいのかもしれない。
家族のなかには、「治」ではないことはわかっているが「じ」以外の読み方が思いつかない、という声もあった。

輝斗(あきと)は「輝(あきら)」の①ぶった切りだが、個人的には全く読みづらくない名前だ考えていたので、正答者がいないこの結果には驚いた。
「輝」の読み方として、「あきら」の認知度はあまり高くないのだろうか。

碧(あおり)という名前は、「碧(あお)+り」の⑪付加読みと考えられるが、このパターンの名前はなんでもありなので、読めなくても致し方ないだろう。
わたしが過去に収集した名前のなかにも、「碧の付加読み」は「あおき」「あおと」「あおみ」などのパターンがあり、その自由度・難易度がよくわかる。

メンバー名|読み方|父の回答|妹の回答|母の回答

璃音(りと)亜音(あお)といった名前で使われている「音(と)」や「音(お)」は、辞書にも載っている名乗り読みだ。
最近の名前にはそこそこよく見られる読み方だが、さすがにまだ難読であるようだ。

蒼空(そら)碧空(あおい)はどちらもシンプルな㉘置き字の名前であるが、正答率には差が出ている。
「蒼」は「そう」と読むため、「そら」に近づきやすいのかもしれない。
置き字について、わたしはかなり発展した文化だと捉えており、世間にはさまざまなパターンの名前が存在する。
置き字に特化した過去記事もある(#32#33)ので、そちらも参照されたい。

陽之介(はるのすけ)という名前は、全員が「ようのすけ」と読んでいる。
前回、48グループのアンケートをとったときもそうだったのだが、やはり「陽(はる)」という読み方は、思った以上に一般に浸透していないのかもしれない。

太陽(ひかる)⑨イメージ読みである。それほど難易度の高いものではないが、初見では「たいよう」としか読めないだろう。

輝汐(きせき)に関して、わたしの感覚ではわりと読みやすいほうの名前なのだが、正答者はいなかった。
音読みだけで構成されているものの、名前としてはあまり聞き馴染みのある響きではないことが、読みにくさに繋がっているのかもしれない。

尊星(みこと)㉘置き字の名前だ。家族はそれぞれ「たかし」と「たける」と回答しており、読みこそ間違えたものの、全員が「星」を置き字扱いし、「尊」の部分だけを読んでいる。
読み方の推測が難しい場合に読みやすい一文字目だけを読むというのは、48グループの際にも見られた傾向で、この考え方によって正解に近づく場合もあるようだ。



──これで、以上となる。

前回同様、気になったものをピックアップするかたちで解説したが、今回もかなり盛りだくさんな内容になったように思う。

このアンケートで、Jr.のメンバーのうち3割くらい一発で読むことが難しい名前であるという結果となり、48グループの調査ともほぼ変わりはなかった。
もちろんその3割のなかでも読みにくさの程度に差はあるが、一般的な感覚として、現代の若者の名前はだいたい、3〜4割くらいがやや難易度の高い名前だという認識でいいのではないか。

読めない名前や所謂キラキラネームなどといったものには否定的な意見がついて回ることも多いが、そういったものもすべてひっくるめて、移ろう時代のなかで形成されてきた、名付けという文化なのだろうと、わたしは思う。
とてもおもしろいその文化を、もっと知りながら、これからも見続けていきたい。


そんなわけで、アンケートシリーズはおしまい。

次の題材は何も思いついていないが、今度はもうすこし早い時期から記事を書いて、しっかり更新に間に合わせたいところだ。

それでは、また次回。

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