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#32 置き字ものがたり

最近、名前集めをしていない。
──いや、していないというのは語弊がある。

私の名前収集は、ネットやテレビなどで見つけた名前を写真に撮るなりメモに書くなりして記録する、というのが第一段階の作業で、次にそれらの名前を表を作れるアプリでジャンルごとにまとめたり、別アプリで50音順に並べたりする。
万が一どこかのデータが消えても対処できるように、複数の場所で保存しているのだ。

しかし、この50音順に並べるために使っているアプリがどうも情報量に耐えられないらしく、
入力の最中に落ちてしまったり、登録したはずの名前が消えていたりすることが頻発した。

これが正しい方法なのかわからないが、
とりあえず酷使をやめて少し休ませようと思い、おそらく1ヶ月以上か2ヶ月くらい、この第二段階の作業をストップしている。

その間に読書熱が再燃したこともあって、
名前集めの作業が進んでいないのが現状だ。
第一段階の写真は、フォルダに日々増えていくのだけれど。

ただ流石にそろそろ、スマホでの作業は限界かもしれないと思い始めている。
膨大な情報量でも大丈夫な状態でやりたい。ノートパソコンを買う潮時かもしれない。

でもフリック入力は速いけど、ブラインドタッチは全然できないからなあ……。




さて、そんなわけで
今回取り上げたいのは、置き字について。

置き字というのは本来、漢文を書き下すときに読まない漢字のことだ。
名前における置き字については、#5の記事で書いた説明をそのまま引用したい。

置き字の名前は非常に多く存在しており、私の名前も当てはまる。

私は結生(ゆい)という名前だが、
「結」だけで「ゆい」と読めるので、「生」は無くたっていいのだ。
自分の名前は気に入っているので良いのだけれど、実際、「生」が付いていることで読みにくくなっている部分がある。

ただ、この置き字というのはいろいろなタイプがあり、定義も決まりきっていない。

位置だけでも①最後 ②最初 ③真ん中の3パターンある。
また置き字は1文字だけのことが多いが、2文字使われている場合もある。

今日は、置き字とは一体どのようなものなのか、
実例を挙げつつ掘り下げていきたいと思う。



まず、置き字でいちばんわかりやすいのは、
「桜(さくら)」とか「湊(みなと)」とか明らかにそれ1文字で読むことができるものに漢字をプラスアルファさせるタイプだ。
このタイプは、2パターンに枝分かれする。

1パターン目は、付け足された漢字が読みに則っているもの。

例:桜(さくら) 湊(みなと)
  紗桜(さくら) 湊(みなと)

置き字された漢字が、「ら=良」や「と=斗」といったように読みに結びついている(「心」を「み」と読むのは名乗り読みである)。
#5で「ぶった切りと捉えられる場合もある」と書いているのは、こういった名前のことだ。
個人的にこのパターンの名前は、読み方を推測する際に置き字があまり妨げにならないので、置き字の中では読みやすい方だと感じる。

2パターン目は、付け足された漢字が読みと紐づかないもの。

例:桜(さくら) 湊(みなと)
  百桜(さくら)

「みなと」の方は置き字が頭に付くこのパターンの名前が無かったのだが、どの置き字も読みとは全く結びつかない。
先程のパターンとは異なり、置き字があることで読み方の推測が難しくなっている。



こうした漢字1文字+置き字という形が最も多い置き字だが、もちろんそれだけではない。
前述した③真ん中という位置が出てくるのが、漢字2文字に置き字を加える次のようなタイプだ。

例:胡桃(くるみ) 息吹(いぶき)
  友結香(ゆいか) 夢翔(ゆめと)
  芹奈(せりな) 亮太(りょうた)

例:心羽(こはね) 優大(ゆうだい)
  花百佳(ももか) 空人(そらと)
  愛子(あいこ) 海斗(かいと)

上段は置き字が読みと結びついている例、
下段は結びついていない例。

単純に文字数が増えたことでより複雑になっているが、置き字と読みが結びついているかどうかで読みづらさが変わってくるのは、漢字1文字+置き字のタイプと同じだろう。
ちなみにこのタイプの場合、置き字を真ん中に据えるパターンが最も多いような気がする。



ここで、置き字が2文字のタイプも紹介しておきたい。決して数は多くないのだが、そのパターンは様々だ。

例:桜玖空(さくら) 新良大(あらた)
  希好絆(きずな) 明央葵(あおい)
  美(みやび) (みこと)

インパクト大である。
基本的に置き字と読みは結びついているものが多いが、そうはいってもこれは流石に難読だろう。



置き字のタイプは他にもある。
これまでの名前たちは、漢字と読みを見ればどれが置き字なのかはっきりわかったが、
置き字がどれなのかわからない名前というのが存在する。

例:彩綾(あや) 快海(かい)
  乙音(おと) 一肇(はじめ)
  華花(はな) 光輝(ひかる)

例:真愛美(まなみ) 一成生(いっせい)
  海麗玲(みれい) 真心理(しんり)
  桃百花(ももか) 友侑也(ゆうや)

どっちなんだ!というやつ。
同じ読み方をする漢字をふたつ重ねるというのは割と大胆な発想のように思えるが、特に男の子の名前で数多く見受けられた。
男女共に多かったのは「ゆう」という響きに「ゆう」と読む漢字をふたつ用いるパターンで、
優結」「由悠」「勇佑」「釉憂」などなど。



そして置き字を定義するにあたっていちばん悩まされるのが、送り仮名タイプである。

送り仮名タイプとは何かというと、
「光(ひかる)」や「巧(たくみ)」などのように、漢字1文字でそう読むことができる一方で
光る」「巧みといった名詞や動詞になりうるものを用いた名前のことだ。

例:光(ひかる) 巧(たくみ)

上記のような名前の場合、
」や「」は置き字とも捉えられるが、
送り仮名の部分に漢字をあてたとも考えられる。


これらを置き字とするか否かは非常に難しい。

例えば、ごく普通の「歩美(あゆみ)」という名前も送り仮名タイプに当てはまるが、
現時点の一般的な感覚において、「光瑠(ひかる)」の「瑠」と「歩美(あゆみ)」の「美」が同じラインにあるかというと、そうではないと思う。
「歩美(あゆみ)」の「美」には何も思わないけれど、「光瑠(ひかる)」の「瑠」はどこか蛇足に感じる、というような。
どちらの名前も、構成は全く同じなのに。

書いている私自身も、理屈ではわかっていても
「歩美(あゆみ)」が名前としてあまりに自然すぎて、それと「光瑠(ひかる)」を完全にフラットに見ることはできていない気がする。
分類すると全く同じ箱に入る名前なのに、違う感じがしてしまう。
「光瑠(ひかる)」の「瑠」は置き字と捉えても特に違和感はないが、「歩美(あゆみ)」の「美」が置き字だと言われると、ちょっとしっくりこないというか。


まあ、そういう感覚的な話は抜きにしても、
"送り仮名に漢字をあてる"というのを置き字とするかは、なかなか微妙なところだ。

私の名前に使われている「結」も「結い」なので送り仮名タイプに属するのだが、
「結生(ゆい)」や「結衣(ゆい)」といった名前は置き字なのかそうでないのか。

定義が曖昧だといろいろと面倒くさいので
ちゃんと決めておきたいのだけれど、この問題はほんとうに悩ましい。
何故なら、他の誰もこんなこと悩んでいないから。





……ところで。

実はこの記事、もともとは
私がこれまでに収集した名前データの中から
置き字に分類される名前をピックアップして、
その傾向などを調査しようと考えていた。

まず男子名について調べようと思い、
置き字ネーム約1300件を使われている漢字やタイプごとにExcelにまとめたのだけれど、
それを紹介する前に置き字の説明をしようと書き始めたら、思いの外長くなってしまったので
今回は説明をメインにすることにした。

というわけで、置き字ネームの
傾向や流行りについての調査報告は
次回からやっていきたいと思う。


で、それをするには定義を明確にしておきたいのだが、決めかねているので、どうしようかな、
一旦保留ということにしておこうか。
もし、どなたか意見があったら教えて頂きたい。

とりあえず次の更新まで1ヶ月あるので
その間に何らかの形で定められたらいい。
何らかも何も、置き字か置き字じゃないかの2択なので、決めちゃえばいいとは思うのだけれど。

でも、名前について考えるってこういうことだ。
楽しい。


それでは、次回に続く。





※上記の名前は、誰でも閲覧可能なネット上に載っていた名前です。

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