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今日ときめいた言葉16ー「悲しみのみが悲しみを慰めてくれる。淋しさのみが淋しさを癒してくれる」

(2022年12月21日付 朝日新聞 寄稿「思い出して生きる」評論家 川本三郎氏の言葉から)

川本氏が奥様を亡くされてからの14年間の思いを綴った寄稿文である。奥様との思い出を慈しむように語っていられる。とても素敵な方だったのだろう。それは川本氏の文章から十分汲み取れる。

「悲しみや寂しさは消えることはないが、もう慣れた」と書かれているが、川本氏が引用した柳宗悦の言葉からは、川本氏の心情がひしひしと伝わってくるようだ。

「悲しみのみが悲しみを慰めてくれる。淋しさのみが淋しさを癒してくれる」

悲しみや寂しさを無理に振り払うことはない、それらは消えずに共にあるのだと言っている。だから思い出して生きるのだと。年を取ることの良さのひとつは、「思い出」が増えることだそうだ。思い出は老いの身の宝物だ、と。

自分の来し方を振り返ってみても、本当に寂しかったり、悲しかったりした時、一人それを噛みしめていたように思う。誰かに会いたいなどと思わなかった。

反対に寂しさや悲しみを抱えた他者に対しても、言葉がかけられない。何か自分が発することが、嘘くさく感じられてしまう。ただ沈黙するほかない。

悲しみや苦しみと共に生きられるようになるには、相当な時間がかかりそうだ。スベトラーナ・アレクシエービッチ(「戦争は女の顔をしていない」作者)の言うようにそれを解決するのは「一杯のコーヒーや孫の頭をなでる」と言った「日常」だけなのかもしれない。


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