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今日ときめいた言葉64ー「君を愛してもいいか? 愛してくれとは言わない」

(冒頭写真はwww.hallo.tvから転載)

「父が一度も口にしたことがない言葉を言った。『すまない』と。俺も一度も口にしたことがない言葉を言いたい。『君を愛してもいいか?』『愛して』とは言わない。だが俺も愛し方を教わりたい。君の温かい心を学びたい。俺も君のように生きたい。ダメかな」 韓国ドラマ「ジキルとハイドに恋した私」(第15話)から。

「君を愛してもいいか?」

こんな風に慎ましく愛の告白をするこの男性は、孤独と自責の念から何度も自殺を試み、感情を押し殺して生きてきた人である。そんな彼に優しく温かい心で接し、その苦しみから解放してくれた女性に向けて言った言葉だ。

この父の「すまない」を聞いた後、黙々とスープをスプーンですくって口に運びながら、込み上げてくる感情を必死にこらえていた彼の姿は胸に迫まるものがあった。それは、今まで父に拒絶されてきた彼が、一番聞きたかった言葉であったろうから。

このシーンのヒョンビン、いつもながら上手いと思う。私は「愛の不時着」第11話「そばにいなくても」で見せた涙をこらえて感情を抑えていた彼の演技を思い出した。

その男性ク・ソジンは子供時代に誘拐された時、父親は犯人の身代金要求を断った。「父に見捨てられた」という思いと事件のトラウマから解離性同一性障害を発症し、心の中に対照的な性格の副人格ロビンが存在する。

俵万智さんが、愛の不時着についての評論(「ジキルとハイドとリ・ジョンヒョク 「愛の不時着」ノート⑦」)で、リ・ジョンヒョク=ソジン+ロビンと評しているが、ソジンの心はジョンヒョクよりもっと苦しかったのではないかと推測する。ジョンヒョクには、強圧的な父親に体を張って守ってくれる母がいた。彼の優しさは、母親から授かったものだろう。

ソジンの家も同様に強権的で愛情表現のできない父親であるが、母親の存在感が全くなかった。そんな温もりや優しさのない環境でソジンが生き抜くために副人格のロビンが必要だったのだろう。彼には支えたり愛してくれる人がいなかったのだから。心を閉ざして感情に逆らい、たった一人で生きてきた彼の孤独な人生は察するに余りある。

「臆病で傷つきやすい子供だ」と言われ続け、自分を否定し認めない父にソジンは以下のようにいう。

「そんな僕を救ったのは、父さんではなく僕自身でした。あの日を境に僕は父さん以上に僕のことを愛して案じています。もう僕には自分しか見えません。ご心配なく」(第6話)ー「あの日」とは、父親が誘拐犯に身代金を払うことを拒否した日である。

Blueーray Disc のパッケージには、「トライアングル・ラブコメディ」とあるが、各エピソードで彼が発する言葉からは、愛や優しさに臆病で、でもそれを求めている彼の心が痛いほど伝わってくる。だからこのストーリーは、ラブコメと言うより親に見捨てられ、誰も信じない孤独な男性の心の葛藤の物語としか思えず、私には切ない感情だけが残った。

チャン・ハナと出会い、彼女の優しさに触れるたび、彼の心のバランスが崩れ始める。彼女の優しさは、彼の心をかき乱す。ずっと耐えて一人で生きてきた自分がくずれてしまうから。でもその優しさはずっと自分が求めていたものなのだ。

ソジン「手を差し伸べるな。希望も与えるな。君さえいなければ俺は一人で耐え
    た」
ハナ 「心配で。常務が心配なの」
ソジン「心配? 何様のつもりだ。同情はいらない。今日のことは忘れろ。俺は君
    を何とも思っていない。存在自体が迷惑そのものだ」(第8話)

こんなアンビバレントなソジンの悲しいまでの心情を表現するヒョンビンの演技力。実にうまい!人格が、冷たい眼差しのソジンから快活で明るいロビンに変わる、その反対にロビンからソジンへ、ヒョンビンの演技力に吸い込まれる。まるで別人が演じているようだ。

そればかりではない、ソジンがロビンの振りをしたり、逆にロビンがソジンの振りをしたりする二人の人格のグラデーション(前記俵さんの言葉)を巧みに演じているところはもっとすごい。そして物語中盤から生き直そうとするソジンの眼差しが、前半の眼差しと比べると明らかに柔らかく変化している。そんなきめ細やかな表現力にも感嘆する。

心の変化を自覚し始めたソジンがハナに言う言葉ー

「自分が変わり始めたなんて今でも信じられない。ありがとう。子供の時も今も見守ってくれて」(第11話)

「教えてくれ。ロビンの時、俺は何を話し、どう君を笑わせ、どう君を愛するのか」(第14話)

(前日のぞいたロビンとハナが食事をする録画映像には、自分には見せないハナの楽しそうな笑顔が写っていた。拳を握りしめたソジンの内心は?そして自分も夕食にハナを招き、語ったのが上記の言葉である。この言葉にはハナへの悲しいまでの思いが込められている)

「俺の感情を理解し、好意的に解釈してくれて、慰めて褒めてくれたのは君が初めてだ」(第15話)

「俺も感じて笑ってはしゃぎたいんだ。努力しちゃダメなのか?いい人になりたいんだ。自分を取り戻すために」(第16話)

そして、自分を苦しめてきた過去の記憶から解放されたあと、自分の主治医に語ったのが以下の言葉である。まず自分が一番やりたいのは、言葉で他者を理解することだと。

「言葉を習いたい。話すこと。俺は言葉を惜しむし、人の話を聞かない。だから人の感情も理解せず共感もできない。笑わず、はしゃがず」(第16話)

タイトルの言葉は、ハナとロビンが愛し合っていることを承知の上でソジンが発した愛の告白である。この言葉を告げられたハナはソジンの告白に戸惑いながら次のように言う。

私も何故ここまで常務(ソジン)のことを助けるのか考えてみた。慰めたい、助けてあげたいだけなのか。本当に好意があったのか。あるいはロビンの弟という理由で親切にしたのか」

「常務は苦痛から別の人格を作った。私は一方の人格から癒されて、もう一方を癒していた。癒すのと癒されるのでは、満たされる部分が違うわ。愛は人を癒してくれるけど、薬でもなんでもない。常務にとって、私は薬のようなものなの。私は一緒に感じて、笑って、はしゃいで、気楽になれる人が好きなの。特殊な状態に置かれたせいで勘違いしただけかも」


これは、「トライアングル・ラブコメディ」だろうかとふと思う。世に言う「三角関係」とは違い、三人は誰かから一方的に誰かを奪おうとはしていない。むしろ分かち合い、お互いのために自分が犠牲になろうとする関係だ。

ソジンは、ハナの愛するロビンを生かすために病の治療をやめる。自分もハナを愛しているのに。ロビンは医学上「病巣」であり、取り除かねばならない存在にもかかわらず三人で共生して行こうと言う。

ハナは、ロビンに対する気持ちは決して変わらないと告げた後の二人の会話で、ソジンの言葉が胸を突く。

ハナ 「では、なぜ私があなたを愛しているかどうか確かめようとしたの?」
ソジン「俺は君の気持ちを確かめることしかできない。何かしようとすれば3人の
    均衡が崩れる」

愛する人の思いを叶えるために、自分の人生を捧げる。これって、ほとんど自己犠牲ではないだろうか?ロビンを案ずるハナを見つめるソジンの眼差しの何と優しいことか。この人は本来そういう人だったのだろう。だが、自分の愛する人が自分の副人格を深く愛している。それを見つめる彼の内心を思うと切ない。

一方で、ハナもロビンに言う。

「私たちが幸せになるために、他の人を犠牲にはできない」

ハナは、ソジンの思いを知りながらロビンとの愛だけを貫けない。

そして最後にロビンもソジンにメッセージを残す。

「お前はハナさんを心から愛している。だから僕は消える。ハナさんもお前を愛するようになれば、消えたことを僕は悔やまずに済む」

ソジンが優しい心を取り戻していくとロビンの存在意義が揺らぎ始める。ロビンは、副人格であることで、自分は虚像である、偽物だという思いに常に苦しんできた。いつか消えてしまう存在なのだ、と。そんなロビンにかけたハナの言葉。

「愛する心は偽物じゃない。私があなたを愛する限りロビンは本物よ」


だが二人の人格の一体化が進んでいき、着実にロビンの記憶が失われて行くなかで、ロビンはハナとの記憶があるうちに別れ、消える決心をする。ロビンがハナに向けて語った言葉ー

「腕がなくても僕はロビンだ。脚がなくなってもロビンのままだ。でも記憶が消えたらロビンじゃなくなる。一緒にいてもハナさんのことが分からなくなったら意味がないだろう」

消えていかなければならないロビンの悲しい心の叫びを演じたヒョンビンの演技は圧巻だった。そして、ハナとの最後の別れのシーンは心に沁みた。「愛してる」と言ったハナに、

「愛するのは僕の役目だ。ハナさんは幸せになって。僕がそばにいるみたいにね」

もともとソジンとロビンは共に生きられない運命なのだが、ソジンの心を再生させ、魂も肉体もないと苦しむロビンには愛し愛されたことで生きた証を実感させた女性ーチャン・ハナ。

彼女の愛の力がこんな美しい奇跡を起こしたのだろう。人間性が豊かで、エムパシーの高い女性である。ロビンを心から愛しているが、ソジンの病が治ることも強く願ってもいる。ソジンの内面を理解するがゆえに、たびたび彼に救いの手を差し伸べる。そんな彼女の言動がソジンを癒し、ロビンがここで生きたのだという存在意義を与えた。さらにソジンを苦しめた幼なじみイ・スヒョンの心まで惹きつけた。

そしてソジンの秘書クォンの存在も忘れてはいけないだろう。彼はソジンの孤独な人生の中でただ一人、常に寄り添い、温かい言葉をかけ、励ましていた人だ。ロビンが消えることになった時は大泣きしていた。

このドラマのOST”Because of you”は愛の歌であるが、かつてソジンがハナに向かって言った言葉「君のせいで」ロビンが現れ、自分の人生が狂い始めたというネガティヴな意味で使われた。でも、今は”Thanks to you”「君のおかげで」の意味だろう。だから僕は今生き直していると。

最後はソジンとロビンの人格が融合して、ロビンの能力や記憶までがソジンに溶け込む。だが結婚式の記憶だけはなかったという粋な終わり方である。ロビンがその記憶を持っていったのだろう、と。

ラブコメ?私の心には、消えていかなければならないロビンの切なさと悲しみの余韻が深く残った・・・。

何故かこのシーンがとてもときめいた!この時、確かにソジンの心が動いた⁈(第4話)

                     (vod-hallofffame.comから転載)

余韻の残る映像❣️

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