見出し画像

今日ときめいた言葉86ー「私たちは過去から解き放たれるために、過去を知らなければならない」

(タイトル写真は、www.amazon.co.jp から転載)


(2023年10月23日付 朝日新聞「現場へ!」大阪大学教授 北村毅氏の言葉)

この記事は、北村氏が幼少期に受けた父親からの暴力について、原因を探っていったらその父親の父、つまり北村氏の祖父の過酷な戦争体験にたどり着いたというものである。

祖父は太平洋戦争に召集され中国戦線で戦った日本軍の復員兵だった。殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くす「三光作戦」と言われる残虐な作戦で武勲を挙げた優秀な兵士ー「過剰に適応した優秀な兵士」だったようだ。

その祖父は帰還後、酒を浴びるように飲んで暴れ、妻や子ー北村氏の父ーに暴力を振るった。そして虐待は祖父から父へと連鎖していった。当時過酷な戦争体験のトラウマを抱えて苦しみながら生きた旧日本兵の心の傷にはついぞ光が当たらなかった。

昭和の時代よく暴れる父親の話やアルコールに溺れた男性の話、復員後人が変わってしまったようにふさぎ込む人などの話をよく聞いた。個人の問題として見過ごされてきたが、その中には戦争体験が深く関係していた事例が多くあったに違いない。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害)は、ベトナム戦争前後の帰還米兵の心的症状から注目を集めるようになったが、帰還日本兵の心の傷に対しては、国や医師、国民の関心は低く長年顧みられることがなかった。日本では精神医療に対する意識は欧米などに比べ非常に低かった。

NHKの番組によると戦中戦後、心に傷を負った兵士については、

「戦時中、日本軍は『戦争への恐怖で発症する兵士はいない』と、表向きはその存在を否定する一方で、千葉県にあった国府台陸軍病院を専門病院として患者の治療を行っていました」(「戦跡 薄れる記憶 AFTER THE WAR」NHKドキュメンタリーから)

「虐待やDV、引きこもりなど現代社会の問題の背景に数世代前の戦争体験があるのではないか」

と北村氏は指摘する。そして、続ける。

「あの戦争と私たちの現在はどこかでつながっている。戦争による『心の傷』と向き合うことで、この社会が何に傷つき、損なわれているのかを認識することができるはずだ」

「加害体験を継承する意味は、暴力の連鎖を断ち切り、加害者も被害者も生み出さない未来につなげることだ」

「私たちは過去から解き放たれるために、過去を知らなければならない」


日本政府の戦後70年談話
「戦争に関わりのない世代に謝罪を続ける宿命を負わせてはならない」

この内容に「共感する」とした人が63%に及んだという。これは「加害体験を継承する意味を教えない」「不都合な過去を教えない」、この国の教育の成果であろう。

政治や不都合な歴史に向き合わない、向き合わせない。日本人は永遠に過去から解き放たれない気がする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?