癒しの琉球音階
少し早い夏休みを取って沖縄に行ってきたのである。昼は海で泳ぎ、夜は沖縄料理を肴に泡盛を飲む、そして夜が明けたらまたその繰り返し、という背徳の日々。心身共にリフレッシュしたのである。特に三線歌いの女の子と話をしたのが心に残ったのである。こうして、「である調」で書くとあまり楽しそうだった感じがしないかもしれないが、浦島太郎なみに楽しかったのである。
三線(さんしん=沖縄の三味線)の聴けるお店には何回か行ったことがあったが、大概の場合ステージで歌っているのを聴くというスタイルだった。しかしその日、あるお店で飯を食っていると、三線を持った女性が席に来て目の前で唄ってくれたのだった。お店の計らいの様である。
リクエストすればなんでも唄ってくれると言う。そこでまず「花」(泣きなあさ~い~、笑いなあさ~い、というあの名曲)を唄ってもらったら物凄い上手い。コブシがグルングルン回っているのである。三線の指捌きもクラプトン並みに凄い。今年21才になったばかりで、民謡を始めて10年とのことである。ということは10才くらいから唄っているという訳である。こんなに上手くても、唄は本職ではなくアルバイトだと言う。凄いものである。そして何より素晴らしいのが、話すと素朴で可愛く気さくなのである。
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ここでちょっと音楽的な話にお付き合い頂きたい。実はこの名曲「花」は沖縄出身の喜納昌吉さんが書いた曲だが、琉球音階で書かれていないので、いわゆる琉球民謡と少し印象が違うと感じられる方も多いのではないだろうか。その一方同じ喜納さんの書いた「ハイサイおじさん」は琉球音階で書かれているので実に琉球っぽい。(皆さん、ハイサイおじさん知ってますよね。そうです、あの「変なおじさん」の原曲のあれです)
ご存知の方も多いと思うが、琉球音階はレラ抜き音階とも言い、「ドミファソシド」で成り立っている。ピアノの白鍵でレとラを弾かないように適当に弾いたら即興沖縄民謡になるのである。だから「マイナー」も「メジャー」もない。全部、「琉球」なのである。
この、琉球音階の涼やかな音の並び、実に独特である。沖縄の古くからの民謡はほぼ全てこの「琉球音階」で書かれている。この琉球音階で書かれた唄を、特に現地で三線バックに聞くとなんとも言えない異郷感につつまれる。
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沖縄の唄というと皆さんの頭に一番に浮かぶ曲は何だろうか。「島唄」という人も多いのではないだろうか。しかし、知ってる人は知っていると思うが、この歌を作曲したTHE BOOMの宮沢氏は沖縄の人ではないのである。沖縄の悲しい歴史を知り、それにインスパイアされてこの歌を作ったと言う。
この「島唄」という歌、初めて聴いた時は単に「島っぽいなー!」と言うそのまんまの感想で聞いていたのだが、ある日、この歌、実は奥が深いと言うことを知ったのである。
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この歌は「〽 デイゴの花が咲き、風を呼び嵐が来た」というフレーズで始まる。俺はそれを聴きやっぱり、「うーん、島っぽいなー!」と、目をつぶり鼻の穴を広げながら、美しい島の花が風で揺れている景色などをのんきに思い浮かべていたのであるが、この「デイゴ」というのは沖縄では「災厄を告げる花」であり、この「嵐が来た」というのは1945年の米軍上陸を指しているのだというのである。
「〽 ウージの森であなたと出会い、ウージの下で千代にさよなら」というフレーズも単なる男女のいわゆる恋愛的な出会いと別れ的なあれかなと思って聴いていたが、これが「サトウキビ畑で出会った君と、サトウキビ畑の下の防空壕で永遠の別れとなった」という何とも心の痛む意味だとも知った。
歌詞は全体を通して沖縄の人々が体験した戦争の残酷さを歌ったものだったのだ。それを悲しみを吹き飛ばすような強いメロディーに乗せて歌っているのである。
そして、さらに奥が深いと感じるのは音階の使い方なのである。
この「島唄」、全体的に冒頭に書いた琉球音階で出来ている。しかし、先ほどの「防空壕で永遠の別れとなった」という部分は、ガマ(防空壕)の中で自決したある二人をモデルにしており、いわば「本土の犠牲」の物語を歌った部分なので、この部分(ウージの森で…)から本土の音階(レとラの入った音階)にしたと言うのである。確かにここから琉球音階じゃないので、昔、違和感を感じたことがあったが、なんと意図されたものだったとは!
実は俺は、その後何故かサンバの世界へまっしぐらに進んで行き袖をヒラヒラさせていた宮沢氏を、節操がないと思ってしまったこともあったのだが、この歌の秘密を知った時に深く反省したのである。
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しかし、唄はいいものである。特に旅先でその土地に受け継がれて来た唄を聴くと心に響くものである。
目の前で背筋を真っ直ぐに伸ばし「てぃんさぐぬ花」を歌ってくれる21才の凛々しい顔を見ながら、その日しみじみとそう思ったのである。
(了)
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