見出し画像

【エッセイ】くじらぐもを探しに

 小学1年の国語の授業に「くじらぐも」(作:中川李枝子 絵:柿本幸造)という話を読んだ。あらすじはこうだ。空に現れた巨大なくじらぐもと子供たちとの心温まる交流を描いた話である。体育の授業で一緒に体操をしたり、くじらぐもの背中に乗って色々な所に出かけたり。この話には挿絵に可愛らしいイラストも付いており、白いくじらぐもを見つめて『私もくじらぐもに乗りたいな』なんてうっとり空想に耽ることもしばしばあった。
 
 ある日、授業の終盤に皆で校庭に出て雲のスケッチをしようということになった。課外授業で雲をたくさん眺められるということで、ウキウキしながら玄関に向かった。小1だった私は能天気に『くじらぐも、見れるかな』と期待で胸を膨らませた。友人たちも雲をスケッチするのを楽しみにしていた。

 ところがどっこい、校庭に着いて空を見上げると目に飛び込んできたのは雲一つない青天だった。あまりに綺麗なスカイブルー。雲はどこにもなかった。これには皆大爆笑。「これじゃ、スケッチができないね」と。この日に限って雲がない!そこで急遽計画変更。「皆思い思いに好きな形の雲の絵を描いてね」という先生の言葉にテンションMAXになりながら、揚々と鉛筆を握りながら好きな形に雲を描いていった。アイスクリームの形の雲、ハート型の雲、星型の雲、花型の雲…あっという間に白いキャンバスはたくさんの雲で埋め尽くされた。

 くじらぐもどころか普通の雲も見れなかったが、その日の課外授業は今でも私の心を明るくしてくれる。思い出すたびに、心の中に灯が灯ったような心地になる。大切な思い出だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?