罪〔再々録〕
バッテリー。
キャッチャーとピッチャーは夫婦みたいなもの?
みたいはいい。
でも夫婦だったら?
人気商売。
だから誰にも知られちゃいけない。
私は我慢する。
我慢。
我慢。
ひたすら我慢。
顔はきれいだけど、私に指一本触れない夫。
年俸二億。
キャッチャー二億四千万。
あの人の方が価値が高い。
耐えられなくなって。
友達に話した。
瞬く間に広まって。
キャッチャーの母が自殺した。
キャッチャーは野球をやめて、いずこかへ去った。
母は野球人としての僕を愛で、同性愛者としての僕を否定したのだと思う。
夫宛の手紙にはそうあった。
君とは離婚しない。
それが俺から君への罰だ。
夫は言い、そのまま野球を続けたが。
違うキャッチャーには、夫の球は速すぎて捕れない。
球団を三つ移って、引退した。
今は店舗なしのスポーツショップを営んでる。
ガラガラの電車で、隣に中年の男性が座った。
ふた駅黙っていたその人は、不意に口を切った。
彼らはすごいバッテリーだった。
あんたの好悪で、あたら二つの才能が潰された。
そのことを、みんな覚えてますよ。
ものすごく惜しんでる。
一瞬も忘れないようにね。
目を上げると。
その席にはもう誰もいなかった。
※ イラストは、ゆうのうえんさんが、この作品のために描いてくださったものです。
それでも地球は回っている